いたちごっこ
「事情はわかったけど。お店の今後を勝負で決めるなんて微妙じゃない?」
「俺もそれは言ったんだけどよ。祖父さんが、ここで勝てなきゃ皐月に店はやらねぇって言って聞かなくてさぁ」
「祖父さんらしいな……」
それまで黙って話を聞いていた皐月が微妙な顔をして笑う。そりゃそうだよね。皐月からしてみれば気分の良くない話だ。お店のために毎日ここまで頑張ってくれてたんだし。
確かに筒地君は才能もあるし、天才だとは思う。味だって一部の狂いもない。だけど、私はやっぱり筒地君が作った完璧なお菓子より、皐月が作った心温まるお菓子の方が好きだ。
思い入れや情や絆だって皐月の方がずっと大きいし、うちのお菓子が好きなだけあって誰よりもお店を大切にしてくれるはず。なのに、お祖父ちゃんときたら対決をして勝った方を跡継ぎにするだなんて。そんな熱血料理マンガみたいなことをしないで欲しい。
「俺はお前たちに任せればいいと思ってるんだがなぁ」
「だったら止めてよ」
「そりゃ無理だ。決定権は祖父さんにある」
「意気地なし」
情けないことを堂々と言うお父さんに白けた目を向ける。普段は偉そうに言ったりしてるのに、こういうときだけはヘタレになるんだから。困ったお父さんだ。
「おめぇ、それより祖母さんの方に気をつけろ。あっちは更にややこしいから」
「……お祖母ちゃんったら、また何か言ってるの?」
「あぁ。皐月君と野菊ちゃんの仲が怪しいって言って聞かねぇんだよ」
「は?」
「何でも皐月君と野菊ちゃんの姿が、お向かいの呉服屋の亭主が不倫してたときと、瓜二つだとかで」
「似てるからって一緒にしないで!」
いい加減にしてよ!と憤慨しながらテーブルを叩く。お祖母ちゃんったら、いくら何でも疑いすぎだ。真面目に働いてくれてる二人に対して失礼すぎる。
そりゃ確かに私も気にはなってたよ。皐月ったら野菊ちゃんに対してかなり優しいし。私なんかよりもずっと仲良さそうにしてる。それに、あの短気な皐月が失敗しても怒らずにフォローまで入れてあげるなんて、いったい何事⁉と思いながら毎日見てた。でも、だからって不倫はあり得ない。そこはもう絶対に信じてる。