いたちごっこ
「お祖母ちゃんったらボケてきたんじゃない?」
「さぁ……。そうかもなぁ。やたらと筒地に双葉をゴリ押ししてたし……」
「えぇ。絶対にそうよ。そうとしか思えない」
だったら今すぐ病院に電話しなきゃ。と電話の受話器を手に取る。そしたら「とにかく落ち着け」と皐月に止められた。もう病院は開いてないから、ってそんな問題じゃない。
「私を落ち着かせてる場合じゃないでしょう!」
「いいや、一旦落ち着け。大丈夫だから」
「何が大丈夫なの?」
全然大丈夫じゃない。とツッコミたいけど、皐月は冷静な態度だ。澄ました顔をして首を横に振っている。言われている当事者なはずなのに。
「よく考えろ。祖母さんは店の行く末が心配なだけだって」
「心配って?何が?」
「俺じゃ力不足だとか筒地の方が性に合ってるじゃないかとか」
だから何も問題ないって振り払うように皐月は言う。いくら筒地君を気に入っているからって私の結婚生活にまで口を出すなんて許せない。
「あのね、私は跡継ぎとして適しているなら誰でも良かったわけじゃないから」
「じゃあ、なんだよ」
「皐月しかいないと思ったから皐月と結婚をしたの。その辺、勘違いをしないで!」
バシッとテーブルを叩いてキッパリと言い切った。一緒にお店を継ぐなら皐月しかいない。皐月以上にそう思える人なんてこの先現れやしない。そう思ったから皐月と結婚した。それを皐月まで否定しないで欲しい。そんな気持ちでいっぱい。
しかし、皐月は面食らった顔をしている。動揺したように瞳を揺らして信じられないって顔だ。まさかわかってなかったとか……?意外な反応にこちらまで驚く。
「お前って店のために俺と結婚したんじゃなかったのな」
「当たり前でしょう」
照れたように目を細めた皐月に努めて冷静に返す。余裕ぶってるけど、軽く動揺。そんな反応が返ってくるとは思ってなかったし。そんな私たちをお父さんがニヤニヤしながら見ている。からかうように。
「なんで笑ってるの?」
「いやぁ。母さんとの若い頃を思い出してな」
「それはいったいどんな感じなの……」
「今のおめぇらみたいな感じよ」
思わず尋ねた私にお父さんは曖昧な答えを返してくる。首を傾げて見たが、それ以上言うつもりはないのかダンマリだ。
お父さん達といえば今の仲が良い姿しか思い浮かばないんだけど。他人から見ればそういう風に見えるんだろうか。
「邪魔しちゃ悪いから帰るわ」
疑問が押し寄せる中、お父さんは徐に立ち上がると「二人でゆっくり話せ」と言って家を出て行った。再び二人っきりになった家の片隅。二人の間に曖昧な空気が流れる。