いたちごっこ
「おい、双葉。そう睨んでやるなよ」
「だって腹が立つんだもん」
「別にそんな、目角を立てるほどのことでもないだろ」
「立てるほどのことよ」
「もっとこう、仲間なんだから仲良くしろや。内で敵を作らず」
「何を言ってるの。その仲間を分裂させようとしているのはお祖母ちゃん達でしょうが」
苦言を呈するお父さんに“黙らっしゃい”と言わんばかりに、ピシャリと言い放つ。
自分でも熱くなり過ぎてるのはわかっているが、こうも堂々と蔑ろにされたのでは納得がいかない。
そうやってお祖母ちゃん達が喋ってる間も皐月は黙々と作業をしているのに。ヘラヘラと笑いながら“余裕、余裕”なんて言われたら、苛立ちの一つだって覚えるでしょうよ。いくら職場を挟んだ付き合いだからって、人の頑張りを無視してまで調子を合わせるようなことは出来ないわ。
むしろココで黙って頷いたら、それこそお祖母ちゃん達の思う壺だと反逆心まで燃え上がる。絶対に勝つ。そんな闘争心でいっぱい。本音を言わずに合わせるだなんて、そんなの旗を巻いて逃げるのと同じなんだから。
「祖父さん達にも考えがあるって言っただろ」
「ないわ。頭の中は空っぽよ」
「おいおい。いくら何でもそれは……」
「いっそ老人ホームの見学にでも行った方がいいんじゃない?」
大真面目にお父さんの顔を見つめ、念のために持ってきておいた老人ホームの資料を渡した。言い聞かせるようにお父さんの肩に手を置いて、ここがいいと思う……なんてオススメの施設を助言。
勿論まだまだ先の話と流されるのはわかってるよ。でも、いっそ、そうして欲しい。そうすれば話が丸く収まる。
「見学なんざせんでいい。まだまだ先の話だ」
「善は急げと言うでしょう」
「急がば回れとも言う」
「じゃあ、もういい。お父さんは黙ってて」
「おぉ、怖っ。日に日に母ちゃんに似てきやがって」
そのお母さんに亭主関白に接しているのに、お父さんは私をお母さん扱いして笑う。そのお母さんから睨まれていることに気づかずに。