いたちごっこ
「だったら皐月には“一生付いていきたい”と思わす勢いで勝って貰わないとね」
「おー。双葉さんが付いていきたいと思うくらい、ですか」
「筒地君が皐月に、よ!」
もー。からかわないで、とクスクス笑う筒地君を軽く睨む。そしたら「照れないでください」と更に笑われた。
すっかり、いつもの筒地君だ。いつの間にか打ち解けちゃって。最初の気まずさが嘘みたい。
「双葉さんは皐月さんの作るお菓子が本当に好きなんですね」
「そうだよ。だから皐月には絶対に負けて欲しくないの」
「だったら心配いりませんよ。皐月さんが絶対に勝ちますって」
「んー、そう思いたいけど、どうだろう。お祖父ちゃんは皐月に厳しいから……」
「逆ですよ。そこはもう、認めてるからこそ厳しくしているんでしょう」
「そうかなぁ」
普段、感じていた思いを筒地君に聞いて貰いながら、先々と足を進める。
筒地君ったら意外と聞き上手だ。喋るつもりもなかったことまで次から次へと話してしまう。
これはお喋り好きなお祖母ちゃんが気に入るわけだ。2人が頻繁に話してる謎が解けた気がする。きっと、あれこれ筒地君を推しているのも、前の店のことが関係しているんだろう。贔屓というよりは気遣ってる感じ。
「筒地君ってお祖母ちゃんと仲がいいよね」
「えぇ、まぁ。女将さんとは子どもの頃からの付き合いなんで」
「あ、そっか。筒地君はお祖母ちゃんの友達のお孫さんだったんだけ?」
「そうですよ。僕にとって女将さんは、祖母を尋ねて美味しい和菓子を持って来てくれる女神でした」
「女神て」
「実家がド田舎なんで。女将さんが持って来てくれるオシャレな和菓子が楽しみで仕方なかったんですよ」
特に最初に練り切りを食べたときの感動が忘れられない、だから和菓子屋職人になった……と、筒地君は当時の思いを含ませるように熱く語る。
その女神から困っているところを拾われて、尊敬する気持ちが爆発してしまったらしい。女将さんは素晴らしい……!と、お祖母ちゃんを褒め称える言葉が止まらない。
それはもう、配達を終えて店に帰るまで、ずっと続いた。何ならお店でも褒めてて、お祖父ちゃんに“仕事に集中しろ”って怒られていたくらいだ。
それくらい熱く、この日の筒地君はお祖母ちゃんへの尊敬と憧れを語っていた。
ある意味、愛である――。