いたちごっこ
「それでねー、皐月さん……、って皐月さん。皐月さんってば。ちょっと、聞いてます?」
「はい?」
双葉と筒地の話を盗み聞きしてたら、野菊ちゃんが隣に来て、不貞腐れた顔で俺を見上げた。
どうやら、さっきからずっと俺に話し掛けていたらしい。何か騒いでるのはわかってたけど、てっきり祖母さんと話しているのかと思ってた。無視された、と拗ねられて困る。
「もー、さっきから話し掛けてるのに〜」
「ごめん。何?」
「ですから、お菓子の詰め合わせ方を教えて欲しいんです」
「それなら双葉に教えて貰ったら?そこら辺、俺よりあいつの方が詳しいし」
「えー。皐月さんがいいです」
だから、なんで俺だよ?と思うが、双葉ちゃんは“教えて、教えて”と連呼して諦めない。そろそろ店に出ないと客が来るだろうに、一向に作業場から出て行こうともしねぇし。祖母さんまで「教えてあげてよ〜」と横から猫なで声で頼んでくる。
いやいや、それなら祖母さんが教えてやれよ。間違いなく、この店の中で1番に上手いだろ。それに俺は今、団子を仕込んでるんだから。そこに時間を割く暇はない。
「申し訳ないけど、俺は今、手が離せないんで」
「そんな〜。ちょっとでいいんです!お願いします!」
「そうだよ、皐月君。新人の子が成長したいとココまで頼み込んでるんだから。少しくらい教えてやってもいいじゃないか」
「そう言われても」
「はぁ…。ったく、しょうがねぇな。おめぇ、ちと、そっちの方で教えてやれや」
ぐいぐい押し寄せる2人に苦笑いを浮かべてたら、先にジィちゃんの方が折れてしまった。根負けしたというより、きっと側で騒がれるのが煩わしくなったんだろう。
俺のやっていた作業をささっと引き継いだかと思うと、向こうに行けと言わんばかりに手で追い払われた。
いやいや、扱い酷ぇな。これは俺の所為なのか?ホントこいつらマジで何がしたいんだよ……と心の中で軽く嘆く。