いたちごっこ


 「あー…、じゃあ、こっちで」

 「わーい!ありがとうございますっ!」


 しかし、追い出されてしまった以上はやるしかない。不服だったが作業場の片隅に移動し、付いてきた野菊ちゃんにお菓子の詰め合わせ方を教える。


 ただ教えると言っても意外と奥が深い。入れ物の種類や大きさや金額によって選べるお菓子や個数も違うし。潰れたり隙間が出来ないように調整を入れたり、消費期限や温度管理が合うお菓子を選別したり、思ってる以上に知識が必要だ。

 テンプレート的な感じの商品だって、店の人気商品だけを集めた物とか、手土産に喜ばれそうな物とか、冠婚葬祭用とか、いろんな種類がある。


 だから俺が教えたのは本当に基礎だけ。正直あまり詳しくねーし。そこら辺の知識は長年見てて自然と覚えたってくらいのもんだ。これなら双葉の方が絶対に詳しい。あいつの頭の中にはプチギフト的な物から贈り物用まで、用途や金額の合わせ方から何をどう配置すればいいかまで全て頭に入ってる。


 しかもセンスがいいんだよなー。あいつが詰めると美味しそうに見えるというか、お得感があるように見えるというか、商品をどう見せれば一番よく見えるか分かってる。

 組み合わせの選び方も上手くて、あいつが新しく考えた“お試しセット”は新規客からも常連からも物凄く好評でバカ売れた。

 そのお試しセットは“食べてみたいけど、口に合うか……”って買い悩んでる人向けの商品で、その名の通りいろんな商品を一つずつ詰め合わせてある。


 それこそ初めてきた客は店の味を知りたいからと試しに買うし、よく来る客も気になってた商品が入ってるからと買う。誰かにあげたい客も味見用に買うし、固定の商品しか買わない客も好きなお菓子が一緒に入ってるからと試しに買う。気に入った商品をリピートする客も多いし、自分のおやつ用にしたり、プレゼント用にしたり、わりといろんな用途で買われてる。


 売り上げの伸び悩んでいた商品まで混ぜれば上向きに回復したんだから、ほんと大成功だったと思う。

 一種の才能だよな。自分はまだまだだとか言うけど、ちゃんと店に貢献してるし、充分だろ。


 そりゃ祖母さんやお義母さんには負けるかも知れないけど、あれはもう長年の経験が物を言うってやつだ。双葉だって跡継ぎとして、ちゃんとやれてるよ。

 だから野菊ちゃんだって双葉から教わった方が確実に学びがある。半素人の俺から学ぶよりは。


 しかし、まぁ、この子はそんな助言を聞かない。
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