いたちごっこ


 「皐月さ〜ん。これとこれ、ですか?」

 「あぁ、そう。後はこれも」


 ただ、意外と熱心に俺の説明は聞いてるみたいだった。こうやればいいかとか詳しくコツを聞いてくる。

 何か意外。物覚えも悪くないし、反発もなければ素直だ。使えねぇヤツだと思ってたけど、それなりに仕事熱心なところもあるのか?

 やる気があるヤツは嫌いじゃないし、ちょっとだけ見直す。


 「すごーい!皐月さんっ。やっぱり教え方が上手いです〜っ」


 だけど、やっぱ変。キャーキャー騒ぐし、無駄に距離が近い。離れても窘めてもピッタリと俺にくっついてくる。


 「だから、そんなにくっついたら邪魔だって」

 「もー。そんなこと言わないでくださいよ」

 「ほんとマジで。作業がしにくいから」


 ハッキリ邪魔だと押し退けたが、野菊ちゃんは気にする様子もなく再び俺に擦り寄ってくる。

 ほんと隙さえあればベタベタとしてきやがって。お前はゲージで飼われているハムスターか!店の中は広いんだからスペースを存分に使え。そんなにベッタリくっついて作業をする必要はねぇだろうがよ。

 曇りなく笑うその笑顔が何か怖い。こいつ何か良からぬことでも企んでいるんじゃないだろうな……、と疑う。


 「あー、野菊ちゃん」

 「何ですか〜?」

 「前から気になってたんだけど。なんで、そんな俺に引っ付いてくんの?」


 思いきって野菊ちゃんに聞いてみた。一応、周りには聞こえないくらい小さな声で。

 言い方はきつくなったけど、散々しつこくスルーされてきたんだから、それくらいの圧は許して欲しい。


 だって俺に気があるとか、そんなありきたりな理由でやってんじゃねぇだろ。絶対。悪意があるというか態とっぽい。少なくともお前には何かしら裏がある。


 「何故?と言われても」

 「もっと節度を持ってやってくんね?」

 「えー。これくらい別に普通じゃありません?」

 「どこが!?」


 全く悪気がなさそうに首を傾げられ、んな訳ねーだろ!と驚きに目を見開く。

 こいつ、やっぱおかしい。天然ぶってるけど、絶対に違うだろ。祖母さんも鬼のように俺らの仲を疑ってるし、この女、裏で何か言ってんじゃねぇのか……と不信感丸出しで目を細める。

 すると、野菊ちゃんは俺を見つめて悪戯っぽく唇の端を上げた。唇に指を当てて“しー“って何だそれ。意味がわからない。


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