いたちごっこ

 「わかりました。じゃあ、皆の前ではヤメておきますね」

 「そうじゃねー。行動を慎めって言ってるんだよ」

 「はい。怪しまれないように気をつけます」

 「だから、そうじゃないって」

 「もー、またまた〜。照れちゃって」

 「照れてねーわ」


 楽しそうにクスクス笑われ、思わず“アホか”と持っていた箱を台に叩きつける。

 ふざけんな。その言い方だと本当に不倫をしているみたいじゃねぇか。ただでさえ疑われてるんだから妙な言い方をするなよ。ほんと困るわ、全く話が通じねぇし。

 祖母さんどころか双葉にまで疑われたらどうするんだよ。それだけは勘弁してくれ……。やっと少し距離が縮まったのにまた離れていくだろ。


 そう複雑な思いを抱えながら溜め息交じりに双葉を見れば、あいつは不服そうな、じとっとした目で俺を見てた。

 めちゃくちゃ冷めた目だ。不貞を疑っているような……。っておい、待て。違うからな!と今すぐ叫んで傍に行きたい衝動に駆られる。



 「ちょっと、ドコに行くんですか?皐月さん」

 「あー、もう良くね?ある程度わかっただろ」

 「嫌です。もう少し教えて欲しいです」

 「それなら祖母さんに聞けよ」


 思わず本能に従おうとしたが、野菊ちゃんから服を摘まんで止められた。双葉はいよいよ冷気を放っている。

 しかし、それも隣に居た筒地に肩を叩かれたことでコロッと優しいモノに変わった。何を話しているのか笑い合って楽しそうだ。 嫉妬を通り越して羨ましい。俺も交ぜてくれよと思う。

 それすらも客が来たから叶わなかったが。

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