いたちごっこ
「……いつの間に筒地と仲が良くなったんだよ」
『バイバイ』と別れを告げる声を聞いてすぐ。通話を終えた双葉の隣に移動して詰め寄った。逃げられたくなかったからスマホを持つ手とは反対の手首を掴んで軽く拘束。
いや。違うか。本音を言えばドコでもいいから双葉に触れていたかった。心が遠いならせめて物理的にでもって浅はかな考え。
電話一つで嫉妬して触りたくなって、まるでガキみてぇだ。昔の思い出に引きずられたのか精神年齢まで過去に戻ってる。
頭の中じゃヤメた方がいいと思うのに心の中に湧き上がった熱が口を止めてくれない。双葉の口から答えを聞かなきゃ溶けて消えそう。衝動が抑えられない。
「あ、えっと…。この間、配達に行ったときに前のお店のこととか色々と話して……」
「ふーん…」
「思ってたよりいい人だって分かってね。何か、その、話すようになった……」
「そっか」
自分から聞いたくせに微妙な気持ちになって、ついつい素っ気ない返事をしてしまう。
嫉妬と不安と恥ずかしさがゴチャ混ぜ。そこに苛立ちが霧のように掛かっている。
俺に詰められるとは思っていなかったのか、双葉は大人しく捉えられつつも、しどろもどろ。困惑したように瞳を揺らされて余計に気が荒ぶる。
「なんで、そんなことを聞くの?」って聞かれちゃマズイのかよ。ソワソワと落ち着きなく体を動かして、何か聞かれたくない出来事でもあったのかと疑心暗鬼。
もちろん普段は触ったりしねーし、隣に座ることもないんだから、いきなりこんな風に来られたら驚くのも当たり前だ。双葉の焦りの理由は発言よりもそれが半分以上の割合を占めてると思う。
ただ今はもう何もかも火種にしかならない。頭の中の不安を全部否定されたいし、全て暴かなきゃ気が済まなくなってる。
「聞いたら悪いのか」
「そんなことないけど。気にするなんて珍しいし……」
「別に。ただ、番号まで交換するほど仲が良くなったのなと思っただけ」
「番号、交換?」
「さっきまで話してただろ」
つくづく俺も素直じゃない。嫌で堪らないくせに、さほど興味のない振りをして目を逸らす。
そんな俺の誤魔化しなんて双葉にはバレバレだったんだろう。機嫌を取るように笑ってスマホを差し出された。
「違うって。さっきのはお父さんの電話」
「親父さん?」
「今、二人とも実家に居るみたいで。筒地君がお父さんの電話を借りて私に掛けてきたの」
「なんで、筒地が双葉の実家に居るんだよ」
「実家にお祖母ちゃんの友達が泊まりに来てるから。筒地君も一緒に泊まってるみたい」
ほら、と見せられたスマホの画面には確かに双葉の親父さんの番号が載っている。
筒地の祖母さんか……。そういえば筒地と祖母さんがそんな感じのことを言って早めに帰ってたっけ。それで筒地も双葉の実家に泊まってて、一緒に居る親父さんからスマホを借りて双葉に電話してきたのか……。
あぁ、何だ俺の勘違いかって安心感と、だからってなんで双葉に電話を掛けてくるんだって不信感がせめぎ合う。
人からスマホを借りてまで連絡してくるなんて、余ほど双葉と話したかったってことだろ。