いたちごっこ
「だからってなんで双葉に掛けてくるんだよ」
そんなこと双葉に聞いたって仕方ないことだけど、答えが知りたくて尋ねた。
とにかく今日の俺は強気だ。気になるなら聞け、の精神。掴んだ手首をそのままに、問うような視線を双葉に投げる。
だって、いくら家に来てるからって別に双葉に電話を掛ける必要はないだろ。話していた感じから察するに急ぎの用事が特にあったわけでもなさそうだし。それなら会ったときに話せば良くね?……と不貞腐れる俺に、双葉は苦笑いを零しつつも理由を説明してくれる。
「来月はお祖母ちゃんの誕生日だから。何をあげれば喜ぶか相談されてたの」
「祖母さんの誕生日?なんで筒地が?」
「そりゃ筒地君にとってお祖母ちゃんは女神だからだよ」
「意味が分かんね……」
「もー、そこはどうだっていいでしょう。人のプライベートの話」
「まぁ、そうだけど」
「それより私のことを言うなら皐月の方はどうなのよ?」
「俺?」
「最近、野菊ちゃんと仲良くしすぎじゃない?毎日のように二人で過ごしてるし」
気付いてないとでも思った?と、俺の怒りを返すように双葉がスマホをテーブルに置いて睨んでくる。
いきなり拗ね返されて今度は俺がタジタジ。立場が完全に逆転してる。
「ちょっと待て。俺は別に仲良くなんかしてねぇぞ」
「そんなことない。今日だって二人で居たし」
「違う。あれは好きで居るんじゃない」
そこのところ絶対に勘違いするな、と顔付きを改めて双葉に大真面目に答える。
だってそうだ。その辺、全くもって俺の意思は入ってない。
確かにあれから野菊ちゃんと話すことが増えたが、それは皆が何かにつけて野菊ちゃんの世話を俺に押し付けてくるからだ。“皐月君が言えばミスが減るから”って謎な理由らしいが、俺からすれば作業も滞るし手間だし大変だし、不満でしょうがないくらいなんだよ。
それでも店の長である祖父さんに『この先、未熟なヤツを育てることも多々ある。これも修行の一環だ』と言われれば頷くしかない。確かにそうだと思うし。
だから結果そうなってるだけであって、俺が好きで居るわけじゃない。双葉と筒地のそれとは違う。