いたちごっこ
「そんなこと言って……。この間だって二人でコソコソ内緒話をしてたくせに」
「違う。あれは、あんま引っ付くなって注意してたんだよ」
「へぇー。それを言った上での”皆の前ではヤメておきます”発言だったの?」
「そ、それは、野菊ちゃんがただの冗談で言っただけだろ」
鋭い視線を向けられて思わず動揺。疑ってると思ったが、やっぱり変に捉えてたか。道理で最近、冷めた目で見られることがあると思ってたわ。
でも、そこはなー。納得のいくように説明してやりたくても、ホントただの冗談としか言いようがない。あの後どれだけ問い詰めようが、野菊ちゃんは言わず語らず。全くもって意図不明だ。
俺だって何を考えてんのか聞きたいくらいだし。言うなら向こうが勝手に捏造しただけで実際は何にもない。俺は頑なに拒否ってるからな。
だけど、双葉は不満そうだ。忌々しげに俺を睨みつけてハッキリとした答えを聞きたがってる。
「冗談?そんなこと冗談なんかで言う?」
「知るか。マジで何もねーし」
「誤魔化さないで教えてよ」
「誤魔化してないって」
「ハッキリ答えられないなんて変」
「だから答えてるだろ」
「答えになってないもん」
やたらめったら不貞の疑惑をかけられ、答える俺の語気も強まっていく。出来ればさっさと誤解を解きたいし、仲を深めるような話を進めたい。いい加減、気持ちの一つや二つ伝えたいところだ。
だけど、俺の期待とは違って何か雲行きが怪しい。双葉の顔はみるみる仏頂面になっていくし、俺の苛立ちは募っていく。結局は同じことの繰り返しか。ほんと、いたちごっこ。気が付けば罵り合いの喧嘩に発展している。
「とにかく。違うものは違うから」
「えー。何か怪しい……」
「それを言うなら双葉だって怪しいだろ。毎日、毎日、筒地と楽しそうにしやがって」
「私のは普通に話してるだけよ」
「普通って何なんだよ」
「お祖母ちゃんの話とか」
「それ以外のことも何かコソコソこっちを見ながらよく話してるだろ」
「それは別に…、将来のこととか色々……」
「将来って?」
「もー、何だっていいでしょう…っ」
問い返せば双葉は感情が昂ったように叫んだ。機嫌悪くソッポを向いて知らんぷり。言えよ、と軽く問い詰めたが口を結んだまま。
ムキになって隠す一方だ。
ハッキリ答えられないのは変、って言ったのはお前だろ。なんで隠すんだよ。しかも将来のこととか気になるし。お前がどう思って何を考えてるのかとか。
別に全部知りたいわけじゃないけど、秘密にされると無性にモヤつく。いっそ全部暴いてやりたい気分になるのは、こいつが好きで仕方なくなってきてるからだろうか。
自分が超えられない壁を他の男があっさり超えて、あまつ傍に立ってるみたいで腹が立つ。俺が見たいのはお前の怒った顔じゃねぇんだよ。なんで俺の前ではそんなキレて他の男の前ではニコニコしてるんだ。