いたちごっこ
「何でも良くないから聞いてんだろ」
「いいの。私が筒地君としてるのは、あくまでも皐月の嫁としての会話なんだから」
「嫁としての会話って言われてもな」
「……皐月みたいに他の子にデレデレしてるわけじゃないし、いいじゃない」
「は?んなことしてねーしな」
「してるし!毎日、ベタベタ引っ付いて。本当は私じゃなくて野菊ちゃんの方がいいんでしょう」
本当になんでそんな盛大な勘違いをしているのか知らねぇが、双葉は感情あらわに目を細めて俺に突っかかてくる。どうしてだか涙目にまでなって。
「なんでそうなるんだよ」
「だって諸に皐月のタイプだもん。元カノも皆あんな感じだったし」
「どこが?全然違うだろ」
「一緒だし!無駄に優しくしてるところもニコニコしてるところも同じ。本当は好きなんじゃないの!?」
んな訳あるか。俺が好きなのは紛れもなくお前だ。それ以外の何ものでもない。そう思うのに双葉はそれが事実だとでも言うように酷く傷ついた顔をしている。
意味わかんねー。なんで、そんなあり得ない勘違いをしてやがんだ。見てるようで、ちゃんと見てないだろ。こいつ。
しかし、そんな嫉妬しているようなこと言って。少しは気持ちが芽生えてきたと期待していいのか?お前が言った“皐月だから結婚した”ってあれ。結構、心にぶっ刺さったんだからな。
「だから、ありえねーって」
「嘘だ。本当は私なんかと別れて野菊ちゃんみたいな子と結婚したいと思ってるくせにっ」
「思ってねーし」
「思ってるっ!皐月は私のことなんか全然好きじゃないもん」
「何だよ、それ」
「決まってるたら決まってる。だから、ずっと寝室だって別だし、家でも顔を合わせないし、一緒にドコにも行かないし……」
とにかく自分のことなんか好きじゃないんだ、だから夫婦らしいこともしないんだ、って双葉は俺に只管キレる。めちゃくちゃ怒りをぶつけられて何かもう頭ん中が真っ白。湧き上がった苛立ちと欲が、理性とか自制とかそういった類の物をあっさりと吹き飛ばしていく。
言い訳をするなら寝不足でまともに頭が働かなかった。本音を言えば気持ちが溢れて我慢出来なかった。
だから掴んでいた双葉の手首を引っ張って、強引に体を引き寄せた。気持ちが伝わんない苛立ちと自分だけ見て欲しいって独占欲。 後は純粋に双葉が好きって気持ち。いろんな感情がごちゃ混ぜになって止まらず。
「あぁ、もー、お前うるせぇ」
「え、あ、皐月……」
「黙れよ」
衝動的に双葉の口を自分の唇でふさいだ。