いたちごっこ
したいと思ったことは多々あった。だから唇を重ねた瞬間、やけに胸が熱くなった。欲しいモノを貰った、そんな感覚。
やばいと思ったのは唇を離した後。後悔したってもう遅い。ぶん殴られるか泣かれるかの二択だと思った。
しかし、俺の予想とは違って双葉はさっきまで怒っていたのが嘘みたいにしおらしい。恥ずかしそうに頬を染めてだんまり。かと思ったら堪えきれないと言いたげに視線を逸らして俯いた。
つまり照れてる。
「……なんで満更でもなさそうにしてるんだよ」
「……」
「おい」
「黙れって言った」
「言ったけど……」
確かに言ったけどな。キス一つで大人しくなりすぎだろ。いつも何かにつけては最低だの大嫌いだの言って怒るくせに。
結婚式の日だって喧嘩したし。誓いのキスなんて絶対に嫌だって拒否ってたじゃねぇか。
ほんと、口を開けば憎まれ口の一つくらい返してきたのに。こんなときに限って、そんな反応を返すとか……。狡いだろ。
「嫌じゃなかったのかよ」
「別に…。嫌じゃない……」
「相手、俺なのに?」
「……うん」
恥ずかし気にコクリと頷かれて死ぬほど心が揺れる。