いたちごっこ
雪月風花
「あらまぁ。止まないねぇ…」
雨が降るお昼時の雪月風花。店の中でモップを掛けていたお母さんが外を見て憂鬱げに呟いた。
天気予報は一日雨。朝から降り出した雨の勢いは増す一方で、普段は水捌けのいい店前の道にも薄っすらと水溜まりが出来ている。
「代わろうか?」
「いい。もう終わった」
「こっちも終わっちゃったの」
「あら困った。することがないねぇ」
手に持っていた雑巾をひらひらと振れば、腰に手を当てて困り顔を浮かべるお母さん。手洗い場の方に行き「本当だね〜」と苦笑いを返す。
天気の所為かお客さんの来店が途絶えて店内は暇だ。作業場の方は忙しそうだけど、こちら側はあまりすることがない。
朝から掃除ばかりをしていた所為で磨くところも見つからないし、雑用系は野菊ちゃんに教えるついでに終わらせてしまった。お母さんがやっていたモップ掛けも終わってしまったし、これからお客さんが来るとも思えない。完全に手持ち無沙汰。
お祖母ちゃんと野菊ちゃんなんか既に仕事を探すのを諦めてお喋りに夢中だ。最近流行りのドラマや韓流アイドルについて熱く語っている。
「作業場の方を手伝ってこようかな」
「そうだね。そうしておやり」
「じゃあ、お客さんが来たらよろしくね」
「あぁ」
迷った末に作業場の方へ。頷いたお母さんに店番を任せ、暖簾をくぐり抜ける。
作業場に顔を出すとお父さんと弦さんが夕方に届ける予定の生菓子を奥で作っていた。明日渡す予定のお菓子の段取りについて熱心に話し込んでいる。
お祖父ちゃんと皐月はお出掛け中で今は居ないし、あと話し掛けられそうなのは筒地君だけ。というわけで、どら焼きの仕込みをしていた筒地君の背後に近づく。
「筒地君」
「あ、双葉さん」
「何か手伝うこととかある?」
「手伝い…、ですか」
コテンと首を傾げて聞けば、筒地君は考え込むような顔をした後、キョロキョロと辺りを見回した。作業場の全体を隅々まで確認するくらい。
しかし、一生懸命、探してくれてるけど、今はなさそう。注文自体少ないし、来店も期待できないし。
「ない?」
「そうですね……、特にないかもです」
「ないのか」
申し訳なさそうに微笑まれ、肩をガックリと落とす。ここでも人手は足りてるらしい。