いたちごっこ
念のためにお父さん達にも手伝いを申し出たが、双葉じゃちょっとな……と断られてしまった。忙しいと言えども職人ではない私が出る幕はないようだ。
しょうがないから休憩を取ることにし、作業場の片隅でお茶を淹れる。
「今日、暇ですもんね」
「ねー。早めには帰れそうだけど」
「僕的には少しラッキーです。早めに帰って対決用のお菓子の試作を作りたかったんで」
「あ、そっか。あと三日だもんね」
「はい。いろいろ悩みましたが、やっと納得のいくものが出来上がりました」
「おー、やったね。どんなお菓子にするの?」
作業の邪魔にならないように気を付けつつ、淹れたお茶を飲みながら筒地君と話す。
勝負の日まで残すところ後三日。二号店の行く末まであと少し。皐月は毎日黙々とお菓子作りをしているけど、それは筒地君も一緒だろう。
どんなお菓子を作るのかな、って気になって聞いてみた。またの名を敵情視察とも呼ぶ。
「双葉さんに教えたら皐月さんに言うでしょ」
「もちろん言うよ」
「ならダメです。教えられません」
「えー…。ヒントだけでも」
「聞かないでくださいよ」
しかし、筒地君は手を止めると困ったように目尻を下げた。
二号店を得るよりも皐月に認められたい筒地君は、勝負が近づいた今も皐月に勝つ気でいる。
お父さんからの情報によると、毎日、趣向の違ったお菓子を作ってたって言うんだから、彼のアイデア力は無限大だ。権利こそ投げているものの、皐月にとって強力なライバルなのには違いない。
何と言っても最終的に決めるのはお祖父ちゃんだし。惹かれる部分は違った方がいい。だから何か勝ち目のある一手が欲しくて、筒地君の作るお菓子の情報を聞き出せないかと企んだわけだけど。そんな顔をするからには教えてくれる気はないんだろう。
まぁ、秘密にしてる点では皐月も同じだ。何度聞いても“当日までのお楽しみ”と言って何を作るか教えてくれない。とにかく毎日家のキッチンに閉じこもって、何かを作っては仕事用のノートと睨めっこ。私と過ごすよりもノートと一緒に居る時間の方が長いんじゃないかと思う。