いたちごっこ

 少し寂しいけど、でも、今はその方がいいや。この間、関係を進めてからというものの、家で顔を合わせる度にちょっと恥ずかしい。


 職場だと会っても普通だけど、家だと二人っきりで居る所為か、あの日のことを思い出して“うわあああ”ってなる。肌を重ねたことも、気持ちを伝えたことも、ヤキモチを爆発させちゃったことも、全部思い出しては一人で悶絶。


 本当に恥ずかしい……。あの日の私は私のようで私じゃないみたいだった。今まで何回も喧嘩をしてきたけど、あれだけ真っ正面から皐月とぶつかり合ったのは初めてだったと思う。

 だって皐月がいつもとは違った顔を見せてくるから。つい自分も乗せられて色々と素直に言ってしまった。


 話をしていれば好きじゃないから夫婦らしいことの一つもしてくれないのかと思ったし、好きじゃないなら他の子に目移りするんじゃないかと不安になった。だから好きだと言ってもらえて視界がクリアになったというか、求めてくれたことに安堵感まで感じた。


 あぁ、皐月が好きなんだと自分でも気付いたし、自分の感じていたモヤモヤが何だったのかも、ようやっと分かった気がする。


 野菊ちゃんの件だって、ちょっとだけ疑ってたけど、実際は何もなかったみたいだし。



 それにしても皐月が筒地君と私の仲を気にしてたなんて驚きだ。言わない私も悪いけど、筒地君と私が話す内容なんて、お祖母ちゃんのことか皐月の仕事っぷりを褒める内容ばかりなのに。

 きっと教えれば“何だそうか”となるんだろうど、開き直って素直に皐月をベタ褒めしまくってただけに言いづらい。教え方が上手くて尊敬するとか、諦めずにやり遂げててカッコいいとか、隣に立ちたい相手は皐月だけだとか、色々。


 そんな惚気みたいなことを毎日のように口に出してるなんて本人に伝えるのは、ちょっと今の私にはハードルが高すぎる。



 皐月はあの後、少し落ち着きを取り戻したようで“話すくらいはいい”と私に言ってたけど、実際はどうだろうなぁ……。あんまり仲良くしすぎるのは嫌だとも言ってたし。ちょっとだけ悩む。


 まぁでも、そのおかげで気持ちも聞けたし。一歩どころか大きな進展だ。きっと、あの日のような夜がこれからたくさん訪れるはず。今はまだ恥ずかしいけど。

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