いたちごっこ



 そんな皐月は今、お祖父ちゃんと一緒に二号店の見学に行ってる。雨も振っているし、差し入れもあるから車で。店の方はお父さんと弦さんでどうにか回るし、荷物も重いからってことで運転手けん荷物持ちとして付いていったのだ。

 二号店はほぼ出来上がったようなもので後は細かい修正を入れるだけ。完成まで本当に後もう少しだ。一層のこと、そのまま居座って占領してしまえばいいのにと思う。


 「心配しなくても皐月さんが勝ちますよ」

 「本当に〜?お祖父ちゃんのことだから、まだまだ甘いとか言って意地悪しそうじゃない?」

 「んー。そこは分かりませんが。少なからず意地悪でそれを言ってる訳ではないですよ」

 「え、そう?」

 「はい。皐月さんならまだ上にいけるって期待みたいなモノですから」


 私の不安を拭うように筒地君がひっそりと話し掛けてくる。

 “何と言っても皐月さんは真っ直ぐ努力できる男なんで!”って確かにそう。皐月は旦那としてはアレだけど、職人としては誰よりも熱心で素直で努力家だ。どれだけダメ出しされようと真っ直ぐ受け止めて直向きに頑張っている。


 だからこそ皆に早く認めて欲しいし、絶対に勝って欲しいなと思う。長い年月、頑張ってきた結果を目に見える形で得て欲しい。



 お祖父ちゃんが選ぶお菓子ってどんなのだろう。お店の商品の傾向を見ていると意外と奇抜な物も好きだし、伝統的な物も好きそう。本人の趣味で言えば味も見た目も素朴な感じの物が好きなんだけど、お店に出す商品となるとなぁ……。


 お祖父ちゃんはお客さんファーストだから好みはあまり関係がなさそうだし。皐月も筒地君も味や出来栄えは文句なしのお菓子を出してくるだろうから、後はコンセプトの違いかな。

 目新しい物と格式ある物、お祖父ちゃんが心を引かれるのはどちらだろう……。


 「筒地君の方は多分、和と洋のコラボだよね?」

 「秘密です」

 「ケチ」

 「まぁまぁ。そこら辺は本人に任せて。果報は寝て待て、ですよ」


 冗談交じりに悪態をついた私を宥め、筒地君は楽しそうにはにかんだ。彼曰く勝負に出すお菓子は人気商品になること間違いなしの出来栄えらしい。


 まったく、もう。そんな自信作と戦わなきゃいけないなんて大変すぎる。

 でも、敵としては難儀な相手だけど、味方としては頼もしい。是非とも末永く店に居て欲しい人材だ。


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