いたちごっこ

 「まぁ。双葉ちゃんったら、やーね。これ見よがしに偵察なんか入れちゃって」
 
 「お祖母ちゃん……」

 「思わず聞かなきゃ不安になる程度のお菓子しか用意できないってことかしら?皐月君は」

 「違うわ!勝手に決めつけないでよ」

 「あら、本当に?双葉ちゃんもついに焦り始めたのかと思ったわ」


 ボケかけの老婆もといお祖母ちゃんが作業場に入ってきて、私と筒地君の間に割って入る。

 ニヤリと笑って「この様子じゃ、きっと楽勝ね」って底意地の悪い発言。それに“ふん“と反抗期の娘みたいな反応を返す私は、未だにお祖母ちゃんのことを許せないでいる。


 筒地君の事情は分かったからもういいんだけど、それにしたってお祖母ちゃんは酷い。勝手すぎる。振り回されるこっちの身にもなってよね!って感じだ。


 「双葉ちゃんったら“ふん“って冷たいわぁ。バァバにはもっと優しくして頂戴」

 「嫌よ。意地悪ばかり言うんだもの」

 「まぁまぁまぁ。睨みつけちゃって。最近、胸が痛いっていうのに……」

 「え!?大丈夫ですか?女将さん」

 「いいや。もうダメだねー。私も年だ。ひ孫の顔を見る前にお迎えが来るかも知れない」


 私の態度に抗議をするように、お祖母ちゃんは心配してくれた筒地君の腕に縋り付き、ざっとらしく胸を押さえる。瞳を潤ませながら私の顔を見上げて、まるで悲劇のヒロインだ。実際は悪役の魔女みたいなものなのに。


 「くっだらない。放っておいていいよ。筒地君」

 「双葉さん。でも……」

 「平気、平気。その人のそれ演技だから」

 「まっ。双葉ちゃんってば酷い」

 「何を言ってるの。お祖母ちゃんったら。つい三日前に健康診断の結果が良くてお医者さんに褒められた、って大威張りしてたところでしょう」


 忘れちゃったの?本気でボケた?と弱りきった演技をするお祖母ちゃんに苦笑いを零す。

 この魔女は年の所為で膝が痛いだの腰が痛いだのはあるらしいが、昔から身体の丈夫さだけが取り柄と言われてきただけあって特に病気もせず健康そのもの。風邪すら滅多にひかない。

 他の家族が流行り病に掛かったときも一人でピンピンしてた。ひ孫どころか、ひひ孫まで見て逝きそうな勢い。心配するだけ無駄ってもの。


 「鬼みたいな孫だねぇ」

 「お祖母ちゃんが変な演技をするからよ」

 「そうは言ってもあなた。少しくらい心配してくれたっていいじゃない」

 「大丈夫。心配しなくてもあと30年は生きるわ」

 「生きたいねー。この腕にひ孫を抱く日が来るかどうか……」

 「もー、しつこいなぁ。生きてるうちには見れるって」

 「まぁ!いつ?」

 「だから、そのうちよ」


 食い気味に飛びついてきたお祖母ちゃんを押し止め、ピシャリと冷たくあしらう。

 予定は?だなんて浮かれて気が早いったらないわ。その未来もやっと僅かばかりあり得るようになったところなのに。

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