いたちごっこ
「佐田さんと金田さんのところですよね」
「そうだ」
「じゃあ、俺が届けに行くんで店の方はお願いします」
「いいのか?」
「はい。この雨だと運転も大変でしょうから」
そう言って皐月はお父さんからお菓子の入った箱を受け取った。車のキーを握り締めて「行ってきます」って。今、戻ってきたばかりなのに。帰ってきて早々、配達に出る気らしい。一息つく暇もなく。
本当に仕事熱心だ、と思った矢先。
「……双葉。お前、暇?」
「え、う、うん」
「なら付いてこい」
「へっ?」
「一人じゃ傘が差せないし」
いきなり声を掛けられて動揺。サラリと指名されて目が点。私?と狼狽えながら自分の顔を指差す。
「……そうだな。双葉、付いてってやれ」
「いいの?」
「構わん。何なら今日は二人とも帰っていいぞ。店も暇だし」
皐月の案に乗るように、お祖父ちゃんがコチラを見ることもなく告げる。帰ってきたときのテンションとは違い、何だか低くて機嫌の悪そうな声で。本当にいいの?と思ったが、早く行けと手を振られ、皐月と一緒に作業場から追いやられる。
追い出されるように店を出て数分。箱を抱えた皐月の隣で傘を差す。車は店の駐車場に停めてあるから歩いて数歩、目の前だ。
「何かお祖父ちゃん、機嫌が悪くなかった?」
「かなり悪かったな」
「だよね」
トランクに荷物を詰める皐月と小声で話す。お祖父ちゃんったらムスッとしちゃって、年甲斐もなく拗ねた子どもみたいだったし。 帰ってきたときはわりと普通だったのに、いったい何があったのかと疑問。
意味が分かんないなー、と首を捻ってたら皐月が何でもないことのように言った。
「複雑な気持ちだったんだろ」
「何でよ?」
「店なんかより双葉と二人で過ごす時間の方が大事って言ったから」
「はぁ!!?どうして、そんなことを言ったの?」
思わず声が大きくなる。それを咎める皐月は冷静だ。静かにしろ。って、いやいや。おかしいでしょう。