いたちごっこ
「どっちもいいんじゃない?両方合ってるよ」
「おや。そこは皐月君を選ぶんじゃないのかい?」
「いいの、もう。別に他の誰が認めなくたって私は皐月の作るお菓子が一番って認めてるから」
「あらあら。あんなに跡継ぎに拘ってきたのに」
「えらい変わりようだ」
「この際どうでもいいよ。形がどうあったって私は皐月に付いていくだけだし」
それこそ皐月が職人じゃなくたって私は皐月に付いていく。
だって妻だもの。病めるときも健やかなときも共に、って言うでしょう。それに、そこで照れてる誰かさんはお店より私と過ごす未来の方が大事みたいだし。
それなら、ゆっくりでもいい。 欲しいと言うからには、生涯愛して永遠に離れないと誓いましょう。
「愛だねぇ」
「愛だな」
「その言葉を聞きたかったのよね」
「そうだな。そのために皆で頑張って演技もしたし」
「そうよ。呉服屋さんまで巻き込んで大変だったわ」
お祖母ちゃんとお父さんが穏やかに微笑みながら、うんうんと頷き合う。晴れ晴れとした顔をして安心したかのよう。
しかし、聞き捨てならない台詞に思わず二度見。いったい何を言ってるの?この親子は。
「何だ?演技は終わりか?」
「そうみたいです」
「よし。なら、二号店のオリジナル商品はこの二つで決まりってことで。頼んだぞ」
「はい!ありがとうございます!オーナー」
お父さん達の横で満足気に頬を緩めるお祖父ちゃんと、嬉しそうに顔を綻ばせる筒地君。どうやらお祖父ちゃんは二つとも選ぶようだ。皐月が複雑な面持ちで二人を見る。
「どういうことだよ」
「なーに。筒地君と二人で協力して頑張ってくれって意味さ」
「そうよ。二号店の大将は皐月君で副大将は筒地君でいくから」
「その方がいずれ本店を継ぐときもスムーズだしな」
「つまり皐月が二号店に居る間は副として入ってもらって、本店を継いだ後は筒地君に任すってこと?」
「そういうことだ」
纏めるように尋ねれば皆は“最初からそう決まってた”と口を揃えて言った。だから跡継ぎには興味がないって言ったじゃないですか、と筒地君。お祖父ちゃんのモットー“二頭同時に追えるなら追え、”が生きた結果だ。
「これで天然ドジっ娘のふりもお役ごめんですね」
「よくやったわ!筒地ちゃん。二号店に行っても宜しくね」
「もちろんです!」
一仕事終えたと言いたげな顔で野菊ちゃんが筒地君作の団子を頬張る。
まさか、こっちも演技だと言うの?はああぁぁぁ!?と叫びたい――。