いたちごっこ

いたちごっこ

 「上手くいったわね」

 「頑張りましたぁ!」

 「やったね〜」


 開店したばかりの二号店。店先に飾られたお祝いの花が木の香り漂う真新しいお店を鮮やかに彩っている。

 そんなお店の片隅に設置されたテーブル席で、お祖母ちゃん、野菊ちゃん、筒地君の三人が、団子を口に運びながら無邪気に燥ぐ。

 時間的にお昼すぎ。三人とも今日は出勤日だし、通常ならお店で作業を行っているところ。それがお客さんと一緒になってキャイキャイ店の中でのんびりと。あなたたち仕事はどうした⁉とツッコミたい。



 しかし、訪れた常連のお客さん達まで「良かったね〜。おめでとう」と、晴れやかな笑みを放つものだから口を出せない。お店の隅っこでいそいそとテーブルを拭きながら、恨みがましい視線を送るので精一杯。


 ちなみに皆が話しているネタは二号店……ではなく私と皐月のことだ。いつまでも喧嘩ばかりして余所余所しい私達を見兼ねた皆が、少しばかりお節介を焼いてやろうと、あれこれ仲を引っ掻き回していた……らしい。


 跡継ぎのことなんて関係なく、ちゃんと私達が愛情を持って夫婦をやっていけるように、と。わざわざ恋のライバル役まで雇って。


 そう。何を隠そう、この三人。全部が全部グルだった。

 不倫がどうのって騒ぎ立てたのも、筒地君を二号店へと無駄にゴリ押ししてたのも、野菊ちゃんの皐月へのアピールも、全てが態とで何もかも演技。ただの煽り行為。一から十まで台本通り。私と皐月を騙すために徒党を組んでいた。


 いえ。正しくは両方のお祖父ちゃんと両親。お店の職人。ご近所さん。何なら常連のお客さん達も含めて全員がグル。皆が皆、共演者。何も知らぬは私たち二人だけ。


 それを証明するように、不倫騒ぎで別れたと噂になっていたお向かいの呉服屋さんのご夫婦が、仲睦まじそうに寄り添い、生まれたばかりの赤ちゃんを大事そうに抱えて見せびらかしに来た。初孫よ〜、ってテンション高く。


 「可愛い〜!生まれたのね」

 「そー!もう目に入れたって痛くないの勢いよっ」

 「羨ましいっ。私も早くひ孫を抱きたいわー!」

 「なーに言うてる間ですよ」


 幸せいっぱいにお祖母ちゃんと一緒に燥いじゃって、まぁ。相変わらずの仲良しっぷり。


 離婚だの不倫だの大嘘だ。娘さんが出産するからってお手伝いに行ってただけ。

 バイトの女の子はただの姪御さんよ、ってそんなの聞いてないし、先に言え。



 「そうよねー。うちの孫たちもラブラブだし、すぐよね!」

 「そうよ。そのために皆で演技してたんだから」


 キャッキャッと騒ぐお祖母ちゃんとお母さん。

 そうだ。私達はまんまと罠にハメられていたのだ。“孫達ラブラブ大作戦”なーんて、ふざけたネーミングの作戦に。


 「……考案者は誰?」

 「私に決まってるじゃな〜い」


 布巾をギリリと握り締めた私に、お祖母ちゃんが誇らしげに胸を叩きながら返してくる。

 年甲斐もなくキャピキャピとした口調で返事をして、楽しげな。まるで素晴らしいことをしたとでも思ってそう。

 “イエーイ”と大袈裟に騒ぐ外野の野次が羞恥心を増幅させる。

 ボスはお前か……。厚化粧ババァめ。と心の中で悪態をついてしまったのは極自然なことだ。許して欲しい。

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