いたちごっこ
「心配しなくても。惑わされたりしませんよ」
あまりにもお祖母ちゃんが騒ぐからか、皐月が作業場からひょっこり顔を出した。いつもは舌打ちしかしない唇がゆるりと上がって猫かぶり婿スマイル。気の強そうな切れ目を和らげて視線はお祖母ちゃんの方へ。
しかし、不機嫌。頬がピクピクしている。本当は頭に乗せた和帽子を投げてブチギレたいところだろう。“後でわかってんな?お前”と、言いたげな視線を向けられ、思わずドキッとする。
「本当に〜?離婚沙汰になったりしないでよ」
「なりません。言うて俺たちまだ新婚なんで」
「そのわりには新婚らしさがないわねぇ」
「仕事中は出さないようにしてるんです」
「そーお?あなた達。喧嘩してばかりで、あまり仲良くなさそうに見えるけど……」
「そうですか?家じゃわりと仲良くやってますよ」
な?と肩を叩かれ、コクリと首を縦に振る。嘘ばっかり。仲良くどころか会話もないに等しいじゃない。帰ってきてもすぐにキッチンか寝室に閉じこもって、なかなか出てこないくせに。息でも吐くようにしれっと嘘を吐いて、この男やっぱり信用ならない。
「家ではねぇ……」
「本当よ。こう見えて私たち家では毎日イチャコラしているんだから」
ね?とコチラも皐月に負けじと仲良しアピールを仕返す。何だか嘘を吐かれたことが無性にモヤモヤして仕方がない。この、やり返さずにいないと気が済まない衝動は何なのか。一応、話を合わせてくれているというのに私ったら本当に可愛げがない。
ただし、嘘は吐き返していない。いちゃもん(言いがかり)の付け合いにコラ!の言い合い。略してイチャコラ。うん、うん。あり。全然イケる。ある意味、イチャイチャしているようなものだし、これくらい余裕だろう。
「そう。ちゃんと上手うまくいっているのね」
「いってるよ」
「絶対に絶対の絶対、大丈夫なのね」
「もちろん!」
不安100%な顔で確認をされ、内心ヒヤヒヤしながら笑顔で頷く。
上手くいっているかと聞かれれば、あまり上手くいってないし、仲が良くなさそうって正にその通りだけど、認めたら本当にあの子を断りそうなんだもん。
しかし、やっぱり第三者から見ても微妙な関係に見えるんだ……。喧嘩が減っただけマシかと思っていたけど、生温かったみたい。
「わかった。なら断るのはヤメにする」
「うん」
「その代わり喧嘩せずにちゃんと仲良くやっとくれよ。明日から新しい職人さんも来るからね」
「はーい」
何だか複雑だけど、お祖母ちゃんは私達の言葉をやっと信用したようだ。ビシッといつものお祖母ちゃんらしく小言を言うと、お母さんを連れて作業場へ引っ込んでいった。
残された私と皐月。