いたちごっこ
「まぁまぁ、結果的に良かったじゃないか」
「弦さんまで!いったい何なの?」
「いやはや、すまん。つい乗せられて」
作業場から出てきた皐月のお祖父ちゃんが、申し訳なさそうに後頭部を掻きながら“はは”と笑う。二人の姿を見ていたら、いつか“店のためだけに結婚した”と思い出すようになるんじゃないかと心配だったもんで……と。
確かにね。それは思ってたし、そう見えないように取り繕ったりもした。本当はそうじゃないと知り合えて結果的には良かった、と私だって思うよ。
おかげ様で未来は明るくなったし、長年モヤモヤしていた気持ちの正体がわかってスッキリした。これからの私達は啀いがみ合いながらも、反発し合いながらも、時折、素直に気持ちを伝え合って、毎日を楽しく過ごしていくだろう。
それこそ普通の愛ある一組の夫婦として。少しすづ。一歩ずつ。二人で末永く一緒に歩いていけると思う。
しかし、だ。
「あれだけ悩んだのに〜!」
そうだ。あれだけ悩んで、落ち込んで、苦悩したのに。全部が全部、ただ騙されていただけ、だったなんて。
まるく収まって良かったと思う反面、手のひらで転がされていただけに過ぎなかったのか、と思うと複雑すぎる。
大体、孫にお節介をするためだけに人まで雇って壮大すぎだ。この人達だって演技が上手すぎ。和菓子屋を退職して俳優にでもなった方がいいんじゃないかと思う。
「あなた達、クビね」
「勘弁してくださいよ」
「許してくださいっ」
しかし、本人達は和菓子屋勤めを辞めるつもりはないらしい。むしろ、これからもうちで働き続ける気満々だ。その証拠に、さっき渡された来月のシフトを大事そうに仕舞った。
まぁ、元々、うちのお店に入りたくて面接に来たのだから、辞めずに残るのは当たり前の流れかも知れないけど。
「幸せハッピーで良かったじゃねぇか」
「それはそうだけど…」
「あんた達は昔から好きなものほど、素直に好きだと言えなかったからね。ちょっと皆でお節介を焼いてやったのさ」
「はぁ……」
「後は孫だ。孫」
「いっぱい生むんだろう?頑張って」
早く見せておくれよ~。と、お父さんとお母さんが大声で笑いながら作業場へと引っ込んでいく。
お母さん達め。お店の中でそんな話をしないで欲しい。恥ずかしいじゃない。
しかし、皆して孫、孫って気が早い……。大人しく待っててよ。最近やっと二人でまともに会話が出来るようになったくらいなんだから。