いたちごっこ
「もー、イイっす。そろそろ、その話題はお開きにしてやってくれません?」
皆の騒ぐ声が耳に届いたのか、皐月が恥ずかしそうに作業場から出てきた。「お待たせしました」と盆に乗せた団子と練り切りをお客さんに配り、照れくさそうに耳を朱に染めている。
お客さんたちはそんな皐月が新鮮みたい。大げさなくらい派手なお祝いの言葉をわざと投げ掛けてきた。仲良くなって、やったな、おめでと〜!って。
本当にノリのいいお客さん達だ。ゲートボール同好会のジジババ達だと聞いてたけど、そうは見えないくらい若々しい。
「ほら、お前もボサッとしてないで手伝えよ」
「はぁ?何よ、その言い方」
「うるせぇ。早く奥に戻れ」
「もー!何なの?」
ついには恥ずかしさに耐えきれなくなったらしい。皐月は私を店の奥に追いやりながら盆で軽く叩いてきた。別に痛くはなかったけど、条件反射で思わず睨みつけたら、皐月は私を見下ろしてバカにするように鼻で笑った。
そっちも条件反射か。やっぱりムカつく。
「おや。喧嘩するほど仲がいいってかい」
「隠しておきたくなるほど、好きでしょうがないのよ」
「なるほどな〜」
そんな私達を見た常連さんが、おちょくるようにゲラゲラと笑う。だから皐月と一緒に振り向いて力を込めて言った。
「こんな女」
「こんな男」
「「別に好きじゃない」」ってね。
今日も今日とて喧嘩日和。いつまでも末永く二人で抓り愛。
いたちごっこ【完】