黒を以て白を制す
悪役の人生
「違います!! 安久谷さんがやれって言ったんです」
終業間際の社内にアニメのヒロインを彷彿とさせる愛らしい声が響く。その瞬間、パソコンとにらめっこをしていた多数の社員が顔を上げ、デスクに突っ伏していた部長が殺意に満ちた目で私をじろりと睨んだ。
視線に驚いて見てみれば、声の主、川合萌はクリっとした目を潤ませ、犯人でも言い当てるかのように私、安久谷桑子を指差している。
いったい何の話……?いきなり犯人にされた私は何が何やらさっぱりわからず、パソコンのキーボードから手を離して首を傾げた。しかし、萌と部長はそんな私の様子などお構い無しに会話を続ける。
「本当に安久谷さんが?」
「そうです。私が書類整理をしていたら安久谷さんが来て。青色の資料をファイルから出すように言ってきたんです」
「それで?」
「出した資料をどうすればいいのか聞いたら、シュレッダーの方を指差されたんで~」
「指示された通り、書類をシュレッダーに掛けたのか」
「はい。まさか明日持っていく予定の資料だったとは思わなくって~」
ご立腹な様子の部長にペラペラと事の経緯らしきことを説明している萌の顔をポカーンとした顔で見る。え、何?青色の資料?さっき萌が整理していた書類のこと?
それなら確かに使用済みの書類と一緒にファイルの中に入れようとしていたから止めた。『明日使う資料だから』って。
それにシュレッダーの方に指も指した。けど、それはシュレッダーの横にある部長のデスクを指差したんだし。その後、ちゃんと『部長のデスクの上に置いて欲しい』と伝えたはず。萌だって『わかりました~』って言ってたじゃない。
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