黒を以て白を制す


 嫌いなわけじゃないなら良かった。やっぱり渡すなら好きな物がいい。貰った瞬間に幸せ2倍だ。

 しかし、なんで?と聞かれても……。ちょっと困る。


 だって自分が好きな物を自分の好きなタイミングで渡しているだけだし。強いて言うなら貰って美味しかった物を別の日に返してるだけ。

 だから、欲しいと思ったタイミングでくれるって、そんなの……。



 「偶々(たまたま)でしょ」


 偶然だ。欲しいと思っているのが分かってて渡している訳じゃない。現に今だってそうだった。


 「偶々にしては正確すぎない?思い浮かべたメーカーまで当ててくるし」

 「そんなの単に好みが似てるだけじゃない?伊那君から貰ってハマった物も多いし」

 「えー、でも、昨日買ってきてくれた抹茶フラペチーノのなんて安久谷さんの好みじゃないじゃん」

 「あれは伊那君がたまに飲んでるからよ」

 「本当に本当?頭の中、覗いてない?」

 「覗けるわけないでしょ」



 SFチックなことを真剣な顔で言われ、思わず “ふふっ” と小さく笑ってしまう。

 意外と子供っぽい事を言うんだな、ってちょっと萌え。可愛い。意外な一面だ。



 「じゃあ、ただの偶然か」

 「そうよ。伊那君だって私が欲しいと思っていた物を欲しいと思ったタイミングでくれたりするもん」

 「え、マジ?」

 「うん。結構多い」


 食べたいと思ったお店のケーキだとか。行きたいと思っていた場所の割引券だとか。ちょうど買おうとしていた物をお土産でくれたりとか。

 欲しいと思っていたものを絶妙のタイミングでくれたりする。

 そうそう、ちょうど欲しかったんだ。これ。が連続で続いてる感じ。

 
そう思ったら案外、私と伊那君って気が合うのかも知れない。性格は真逆だけど。


< 10 / 12 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop