黒を以て白を制す


 「ふーん。なんか嬉しいわ。気が合うのかな」


 チョコのパッケージを開けながら伊那君がポツリと呟く。

 あ、同じこと思ってた。やっぱり気が合う。なんて考えてたら伊那君がチョコを口に振り込んで私に顔を向けた。



 「安久谷さん。この後、暇?」

 「うん。特に予定はないけど」

 「だったら飯に付き合ってくれない?」

 「え?」

 「美味そうな店があるんだけど、1人じゃ入りづらい雰囲気でさ。困ってたんだよね」



 そう言うなり伊那君はパソコンを閉じ、さっさと帰り支度を始めた。

 会社の最寄り駅の近くにあるだとか、洋食屋だとか、オムライスが美味しそうだとか、色々とお店について説明してくれてる。

 だけど、そんなのぶっ飛ぶ気持ちだ。誘われた衝撃が強すぎて呆然と固まってしまう。


 だって、ご飯?伊那君と私が?2人で?

 焦った自分の心の声が文字になって頭の中をグルグル廻る。


 別に同僚とご飯くらいと思うかも知れないが、なんせ嫌われ悪役街道を突っ走ってきた私。誰かと2人でご飯なんて入社して以来、初めてだ。

 そりゃ友達だったり元彼だったり、誰かと食事に行った経験くらいは流石にあるけど、会社の人とは全くない。あるとすれば忘年会くらい。


 しかも、相手は会社で1番と言っても過言じゃないくらい人気者な伊那君。

 天国と地獄、白と黒、光と闇、+と-、太陽と雨。対極的な2人。

 そんな真逆な2人がプライベートで食事に?
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