黒を以て白を制す
そりゃ行きたいよ。楽しそうだし。せっかく誘ってくれたんだから行きたいに決まってる。でも、行ったら私の悪役レベルが更に上がる気がする。
『はぁ?ふざけんな!なんであんたが伊那君とご飯に行ってんのよぉ!しねぇっ』って強烈な台詞を他の社員から浴びせられるんじゃない?
行って大丈夫?本当に?フラグ立て要員のおっちゃん達、旗を持って待機してない?スタートダッシュを決め込もうとしていない?いける?
なんて内心ドキドキしながら伊那君の顔を覗くと彼はちょっとだけ困ったように笑った。
「別にいいじゃん。飯くらい」
「う、うん。そうなんだけど」
「それとも嫌?」
「嫌じゃない!嫌じゃないよ。ほんと」
「んじゃ、行こ」
思わず挙動不審になってしまったが、肩を叩かれ素直に立ち上がる。
まぁ、ご飯に行くくらい大丈夫でしょ。多分。何か言われたら『あ、忘年会の三次会をするのを忘れてたんで代わりにやっておきました。さーせん』とでも言えばいい。
うん。それに悪役ライフを楽しんでやるって昨日決めたところだし。むしろ、受けて立つくらいの気持ちで居ればいい。
そうよ!私は勝つのよ!勝って勝手やるんだから。
「お腹空いたね」
「空いた~。早く食べたい」
そんなことを考えながら私は会社を出た後、伊那君とご飯を食べに行った。
そのとき話したのは会社でも話すような普通の会話だ。あれが美味しいだとか、これが好きだとか、出てきた料理についての感想だとか色々。
普通も普通。平和な夜。だけど、いつもより何故だか楽しい、充実した夜になったのだった。