黒を以て白を制す
運命の出会い
「ぎゃゃぁぁぁぁ!マーマー!お姉ちゃんが!お姉ちゃんが!怖いぃぃぃぃ」
凄まじい勢いで子どもが泣き叫ぶ。
伊那君と食事に行った夜から数日後の出勤途中。もう少しで会社に着くかなってところで飛び出してきた子どもにぶつかられた。
子どもの与えた衝撃なんて可愛らしいもの。元気だなーくらいにしか思わなかったんだが、どうやらタイミングが悪かったらしい。
よろけた拍子に自転車に轢かれ、地面に足を強打し、痛みに悶える羽目になる。それでも咄嗟に「大丈夫?怪我はない?」と起き上がって子どもに聞いたのだが、それがいけなかった。
痛みを我慢するあまり顰めっ面になっていたみたいで、目が合った瞬間に冒頭の通り泣き叫ばれたのだ。
子供のママは「すみません、すみません、すみませ~ん」と物凄く怯えた顔で謝ってるし、周りに居た友人ママさん達は「怖い~。そこまで怒らなくたっていいのに」と子ども達を抱えて怒ってる。
見ていた通行人からは蔑むような冷たい視線。私を轢いた自転車のオバサンは「邪魔よ!気を付けなさいよね!」と怒鳴りながら去って行く。
うん。過酷。纏う空気が金星に流れる硫酸の雲のよう。触れたら全身が溶ける。
安久谷桑子、25歳。彼氏いない歴3年。今日も華麗に悪役ライフを楽しんでいます。