黒を以て白を制す

 「安久谷さん。事実かね?」

 「事実というか、確かにシュレッダーの方を指差しましたけど……」

 「またか! 君はいつもいつも」

 「いえ、部長!」

 「黙れ! 必要なのを知ってたくせになんだ!? 後輩イビリでもしてるつもりか!」



 “指したけど、ちゃんと部長のデスクの上に置くように伝えた” と事実を述べる猶予も貰えず。部長から怒り心頭な顔でギャーギャー怒鳴られ、口を閉じる。


 否定したいが、勢いが凄まじくて言い返せない。次から次へと降り注ぐ罵倒の嵐が、白い閃光を放って落ちる雷かのよう。


 あぁ、こりゃ無理だ。真夏に吹き荒れる台風並み。風速60mはある。体が吹き飛ばされそう。



 「酷い~。萌ちゃん怒られ損じゃん」

 「最低ね。わざと処分させるなんて、ほんと意地が悪い」

 「気にすることないわよ、川合さん」

 「そうそう。あんなんに負けるな~」



 周りに集まった社員が萌を囲い、小声でひそひそと話し出す。


 “性格の悪さが顔に滲み出てるよね” 
 “陰気臭い” 
 “やることマジで気持ち悪い“ 
 “しねゴミ”
 “うざいんだよ“

 出るわ、出るわ、私に対する非難が色々と沢山。


 その声を聞きながら “あぁ、またこれか~” と半ば諦めに似た気持ちを抱え、顔を隠すように背中を丸めた。

 

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