黒を以て白を制す


 「おはよう、安久谷さん」

 「ひゃ…っ、ビックリした」


 挨拶と共に肩を叩かれ、肩をビクつかせながら振り返る。散々、無視をされまくった後だから声を掛けられて心の底から驚いた。


 勿論、私に挨拶をしてくれる人なんて社長と部長以外にただ1人。伊那君しか居ない。


 彼は私がイジメられてても全く態度を変えない。それどころか、初めてご飯に行った日から仲が深まった気がする。と言うか確実に仲良くなった。


 ここ数日、毎日のように仕事帰りにご飯を食べに行ってるし、今の私の唯一の癒し。地獄の底に垣間見えた一筋の光。伊那君が居るから辞めずに頑張れる。


 「おはよう伊那君」

 「うん。昨日はお疲れー。今日はドコに行く?居酒屋?蕎麦屋?中華もありかな。どれがいい?」

 「んー、えーっと……居酒屋?」


 朝一番に晩御飯の話かい!と笑いつつ、伊那君の質問に答える。ここ数日、毎日こんな感じだ。外食ばかりで大丈夫かと心配になるけど、毎度繰り広げられる会話の楽しさに負けちゃうんだよね。


 それに味の好みや店の好みが似すぎて、ついつい。晩御飯を楽しみに1日乗り切ろうって感じだ。


 フラグ立てのおっちゃんも今のところ大人しいし。まぁ、立ったところで、ここまで皆に嫌われてたら今更だけど。

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