黒を以て白を制す

 「オッケー。居酒屋ね。楽しみにしてる」

 「うん。私も」


 隣のデスクに座った伊那君に笑顔で頷き、自分のデスクに荷物を置く。周りを見渡してみると既に大半の人が出社しているみたいだった。ただ、いつもは早めに来ている部長だけがまだ居ない。


 「今日から新人が入ってくるらしいよ」

 「マジで?」

 「うん。部長が社長室まで迎えに行った」

 「えー。安久谷のやつ、またイジメるんじゃない?」

 「だね。こんなことも出来ないなら辞めたら?って新人イビリしそう」

 「ウケる。マジで言いそう」

 「辞めるのは皆からハブられてるお前だろって」


 椅子に座った瞬間、後ろからひそひそと話す社員たちの声が聞こえた。今日も今日とて絶好調だな、おい。


 ほんと失礼な。私はイジメをしたことなんて生まれてこの方1度もないわ!新人イビリも後輩イビリもされた方。イジメ常習犯はあなた達の方でしょ。と心の中で1人突っ込む。


 毎度、飽きもせずに後ろからコソコソと忍者か。いっそ堂々と言いに来たらいいのに、と思う。じゃなきゃ言い返すにしたって、わざわざこちらから出向いて『今、私の悪口を言ったでしょ』って喧嘩上等な感じに言わなきゃいけなくなるじゃない。



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