黒を以て白を制す
あー、どうしよう。言うか悩む。言ったら間違いなく大バトル勃発だよね。会社の中が荒れに荒れ模様。社長室にお呼び出しコース。
それもなー。困る。仕事が始まろうかって時間だし、仕事中に喧嘩でゴチャゴチャしてたら皆が皆やり辛いだろう。支障をきたしそう。それは社会人としていかがなものか。
でも、あの人達だって仕事中に嫌がらせをしてきてるしなー。同じかな。きたのを相手にしただけって感じで。
うーん。悩む。いや、しかし、やっぱり許せない。やってることがやってることだ。ぶった斬りたい。
「……コラコラ。目付きが怖い」
「えっ?」
「戦中に敵の大将を見つけた戦国の武将みたいな顔になってる」
「武将って……どんな顔?」
「そりゃ今にも首を討ち取ろうとしてる勇ましい顔だよ」
「えー」
「何?今から討ち取りに行くの?私の悪口を言うんじゃないって」
隣に居た伊那君がパソコンを開きながら困ったように苦笑を浮かべる。あぁ、さっき皆がしてた私の悪口が伊那君にも聞こえてたんだ。
そりゃ隣に居るんだもん。嫌でも聞こえるか。しかし、そんな怒った顔をしてたなんて。自分では気づかなかった。しかも首を討ち取ろうとしてる武将に似てるってちょっと恥ずかしい。気分は正しくそれだけど。
「正直、討ち取りに行きたい。いい加減、腹立つし」
「何なら俺からヤメるように言ってあげようか?」
「いや、いいよ。伊那君に頼んだら負けた気がする」
「なんで?俺が味方したって別に負けじゃないじゃん。一対多数なんだから」
「まぁ、そうだけど……」
そうだけど!伊那君が言ったら皆が100%黙るのは分かってるけど!それじゃ根本的な解決にはならない。
自分で言って、話し合って、相手の話を聞いて、お互い納得して解決する。それが1番望ましい。理想だ。
一応、話せば皆ちゃんと分かってくれるんだよね。誤解なら誤解、腹が立ってたら仲直り、と。そこからは普通の日常、普通の関係になる。
ただ話す機会が極端に少ない。揉め事が起きた瞬間、話すら聞いて貰えなくなる。いつもいつも。あっち行け状態。
小さい事から大きい事、誤解まで私の話はあまり聞いて貰えない。周りは大体相手の話にだけ耳を貸す。そして、何も言えないまま、話し合いもないまま、ボロカス言われたり、嫌がらせをされたりして『桑子は悪』で話が終わる。