黒を以て白を制す
「今日は新しい仲間を紹介する。今城白実さんだ」
仕事が始まり少し時間が過ぎた頃、戻ってきた部長が転校生でも紹介するように新人社員を前に押し出した。
部長から紹介された今城さんはふわふわに巻いた外巻きの髪を揺らし、優雅に微笑みながら1歩前に出る。
鼻筋の通ったアーモンド型の目が印象的な上品な顔立ちの女性だ。立ち振舞いがお嬢様っぽい。いや、本当にお嬢様かも。良い生地を使ってそうなブランドもののスーツを着てる。
「初めまして皆様。只今部長様からご紹介に与りました、今城白実と申します。至らない点も多々あると思いますが、何卒優しい目で宜しくお願いします」
えらく畏まった口調で自己紹介をした今城さんは、両手を揃えてペコリと綺麗な角度でお辞儀をする。いかにもお嬢様っぽい仕草だ。やっぱり本物のお嬢様っぽい。
またどうしてうちの会社にお嬢様が?えらくキャラが濃いのが入って来たな……と思っていたら、今城さんが私の顔を見て驚いたように目を見開いた。
「まぁ!あなたはあのときの優しい方!」
「……はい?」
「私です、私。覚えていらっしゃらない?先月の始め頃に大変親切にして頂いたのですけど」
「えーっと」
「あぁ、どうしましょう。またお会い出来るなんて嬉しい。もうずっとずっとお会いしたいと思ってたんです」
ラメでも振り掛けたんですか?ってくらいキラキラと顔を輝かせ、今城さんは私の手を取り、包み込むように両手でぎゅっと握る。
はしゃぐ彼女の瞳は完全に恋する女そのもの。煌めいててピンクのハートまで見えてきそう。他の人の存在なんてまるで目に入ってない。完全に2人の世界。
これが少女漫画だったら私は間違いなく相手の男役だ。ドキッ!なんて効果音と共に私の目にもハートと光が飛んでいるはず。赤面線が入った照れた顔で『今城さん……』なんてうっとりした感じに名前を呟いて。
しかも、背景は光が散りばめられた薔薇。文字は丸文字。なんならナレーションまで入る。
【新しい職場で運命的な再会を果たした2人。燃え上がる恋。煌めく愛。この2人はこの先いったいどうなるのか……】とかなんとか。
そんなイメージが頭に浮かぶくらい今の彼女は時代を遡った先にある少女漫画の主人公に似てる。先月の始め頃に会ったっぽいことを言ってたけど、いったいどこで会ったんだっけ?