黒を以て白を制す
そうか。あの時の人だったんだ。会社からわりかし近い店だし、あるちゃある話だけど、不思議な縁もあるもんだ。
「あなたお名前は?」
「安久谷桑子です」
「桑子さん!お名前まで素敵でいらっしゃるのね」
「別にそんな……」
「それにお名前も然ることながらお顔も素晴らしい。私のタイプど真ん中ですわ!」
「あー、2人とも。そろそろいいかね?」
ランチ中の女子会みたいな雰囲気を醸し出す私達の間に、部長がコホンと咳払いをしながら気まずそうに割り込む。振り返って見てみれば、全社員が興味津々な顔で私達を見てる状況。
あ、そうだった。皆の前だっけ?今城さんのパワーが凄すぎて、すっかり忘れてた。伊那君なんて、ちょっと笑ってるし。
「それじゃ宜しく頼むな。今城さん」
「はい」
「それで今城さんに付いて貰うものだが……」
「あ、待って下さい。私、桑子さんから教わりたいです!」
「なに?安久谷さんにか?」
「はい。お願いします」
キラキラと目を輝かせながら、今城さんは私の腕に絡みつき、おねだりするように部長の顔を見る。
純粋無垢なあどけない表情だ。なのに、圧倒的な権力で部長を押さえ付けているように見えるのは気のせいだろうか……。
断ったらお父様に言って左遷させてやるからね、覚えてらっしゃい。と顔に書いてあるようだ。しかも本当に左遷されそう。
「あー、まぁ……」
無言の圧力を掛けられて頼まれた張本人の部長もたじたじって顔をしてる。頷くしかないって雰囲気。
「いいでしょう?」
「んー」
「いいわよね?」
「分かった。それじゃ安久谷さん、宜しく頼む」
予想通り部長が折れたのは直ぐのことだった。