黒を以て白を制す
貴女の方が性悪よ
「桑子さん、出来ました!確認お願いします」
今城さんが満面の笑みで出来上がった書類を私に差し出す。
今城さんが入社して2週間。お昼休みも後少しって時間帯。どうやら社会勉強の一環としてこの会社にやって来たらしい彼女は、今日もお嬢様オーラ全開で私を見つめながら少女漫画の主人公の如く目を輝かせている。
まるで恋でもしているような熱烈な視線。ドコに行くにしたって四六時中ベッタリ。トイレにまで「御供します!」と付いてくる徹底ぶり。すっかり私に懐いてしまった。
今だって受け取った書類にオッケーを出した私に“褒めて褒めて”と言わんばかりに纏わり付いてくる。
そこまで懐かれて鬱陶しくないのかって全然。普通に嬉しい。可愛くってしょうがない。こんな風に好意を寄せられるのなんて初めてなんだもの。
それに毎日一緒に居てくれるお陰で仕事に対する嫌がらせが減った。影でコソコソとはやられるけど、堂々とはして来ない。
部長の目もあるし、さすがに新入社員の前ではやりにくいんだろう。お昼休憩のハブも今城さんと一緒に食べるから成立してないし、あるとすれば無視とか悪口くらいだ。
ただ以前とは変わり匂わせっぽく、言われた本人にしか分からないような方法で攻撃を入れてくるようになった。
それこそ何か一言でも私が喋ると『おっはよーございまーす』ってな感じに裏で声真似をされ。チョコを食べていると『チョコ、チョコ、チョコ、マジうざ〜い〜』と歌いながらチラ見され。
目が合うと『きも。ゴミに睨まれたわ』と蔑まれ。伊那君と喋ってると『今日も男に媚び売りまっしょい』と掛け声を放たれ。
今城さんが私に駆け寄ってくると『後輩相手に偉そうにしてる女って居るよね~。見るとムカつく。調子に乗んなって思うわ』と言われる。
その他タイムリーな悪口を色々。まぁ多分、イライラして止まらないけどハッキリと言う訳にはいかないから、わざわざそんな回りくどい言い方をしているんだろう。
保身に走りながらの攻撃。叩きたくて我慢出来ないけど、面倒なの嫌だし。とりあえず分かんないように言っちゃえ~!みたいな。
まぁ、別にいいけど、言われてる側の私までウケるときがあって複雑だ。それはセンスある!よく考えましたね、って。勿論、笑った瞬間、般若のような顔で睨まれるのは言うまでもない。