黒を以て白を制す
「別に構いませんわ。そんなの。嫌いたかったら嫌わせて差しあげればいいのよ」
「えー…」
「私は好きで桑子さんと一緒に居るんですから。他人の意見になんかイチイチ左右されません」
「でも……」
「そもそも一緒に居るだけで嫌いになるなんて。その方の頭が少しおかしいのよ」
紅茶を口に運びながら今城さんは忌々しそうに小さく溜め息を吐く。何だかちょっと冷たい。あまりこういう話は好きじゃないんだろうか。鬱陶しそうにしている。
それにしても、なかなかパンチの効いた返しだ。普段は強気な萌も爪を弄りながら気まずそうに俯いてる。それでも負けないのが萌だが。
「でも、ほら、安久谷さんって意地悪なところがあるじゃない?今城さんもイジメられるかも〜」
「やーね。桑子さんはそんなことをしないわよ」
「するよ。私されたもん」
「嘘おっしゃい」
「嘘じゃない。あの人本当に性格が悪いんだから」
ムキになってテーブルに詰め寄った萌に今城さんは顔をムッとさせる。嫌悪感丸出し。なのに萌は全く引こうとしない。どうにかこいつ説得してやんぞ!と意気込んでるのが見てるこちらにも伝わってくる。
あー、もう、やだな。なんでここまでされにゃいかんのか。謎だ。
「ちょっと貴女、失礼ね!桑子さんは性悪なんかじゃないわ。とっても優しい方よ」
今城さんが立ち上がって腹立たしげに言う。断固拒否、徹底抗戦、萌なんかに負けるかって表情。そんな風に庇って貰うのなんて初めてで、ちょっと感動してしまう。いつもは悪口に花が咲いて悪役コースまっしぐらなのに。やっぱり今城さんは良い子だ。
「いいえ。あの人は優しくなんかないわ。だって顔からして陰険じゃない!」
「陰険なのは貴女の方じゃなくって?影で私にベラベラと。陰湿よ」
「そんな、私は今城さんの心配をして……」
「それはどうも。別にして頂かなくて結構よ」
「もー、何それ。本当のことなのに。今城さんはあの人の性格の悪さを知らないだけだって」
好きと嫌い、両極端の言い合いが加速していく。萌ったら今城さんを味方につけようと必死だ。もっと上手く言えばいいのに。しかし、もう今城さんは怒りかけ寸前。爆発5秒前。
ヤバそう。凄い入り辛いけど、2人を止めた方がいい?止めた方が……、いいに決まってるよね。
悩んだ末に2人を止めようとドアノブに手を掛ける。しかし、その刹那、今城さんが萌の顔を見て小馬鹿にするように“ふっ”と鼻で笑った。貴女、墓穴を掘ったわね。とでも言いたげに。