黒を以て白を制す
「貴女、言ったわよね。桑子さんの性格の悪さを私が知らないだけだって」
「そうよ。あの人本当に意地が悪いんだから。皆、言ってるでしょ」
「あら、だったら別に何の問題もありませんわね」
「え、」
「だってそうでしょう?性格の悪さを知らないくらい桑子さんは私に優しくしてくださってるんです」
「………」
「でしたら私には何の害もないですし。心配して頂く必要もありませんわ」
話を終了させるように言った今城さんに萌は不満そうに顔を顰める。絶対負けて堪るか!って顔で。
おいおい、まだ諦めないのか!と思いつつ、部屋の中に入るのをヤメて様子を窺う。あぁ…。メイドに恋を反対された主人公の相手の男役の気持ちはこんな感じなのだろうか。えー!マジ?俺のこと言ってんじゃん!入り辛ぇー。みたいな。
さすがの私も自分のことをこれだけ言われてると入れない。入れるメンタルがあったら悪役になんてされてないと思う。
「……でも」
「大体、桑子さんの性格が悪いんじゃなくて貴女の心が狭いのが問題なのじゃなくって?」
「なっ!何それ」
「だってそうでしょう?していることを見ると桑子さんより貴女の方がよっぽど性悪に見えるもの」
「は?」
「可哀想な人。嫌いだったら近寄らなければよろしいのに、わざわざ自分の存在をアピールするように嫌がらせまでして。構って貰おうと必死になってるように見えるわよ」
「なってないし!」
お黙り、メイドの分際で!状態の今城さんに萌は苛立たしげに唇をわなわなと震わせる。
うわぁ…。怒ってる。いや、言い返せなくて悔しいのか。どちらにしろ私じゃこうはいかないわ。言い返す時の参考にさせて貰おう。
「いいえ。必死になってるわ。それに一緒になって私に悪口を言って欲しがってるのがバレバレよ」
「違う。私は……」
「おだまり。小賢しい。あなたみたいな浅ましい人が私を騙そうなんて千年早いのよ」
「……」
「やだわ。下劣な人。近寄らないで頂戴」
“ふん”と軽蔑の眼差しを送り、桑子さんは澄ました顔で休憩室から出てくる。
強い……。めちゃくちゃ強い。連続飛び膝蹴りでも食らわせてるのを目撃したかのような気分。冷静かつ丁寧な口調であそこまで言われると、さすがの萌も心にグサグサと入ってくるものがあっただろう。お嬢様の本気の怒りを見たようだ。