黒を以て白を制す

 
 「今城さん」

 「まぁ!桑子さん…っ」


 嫌な思いをさせてしまった事が何だか申し訳なくて。謝ろうと後ろから声を掛けた瞬間、今城さんが表情を一変させて飛んできた。流れる小粒の光を飛ばしながらの猛ダッシュ。まるでご主人様の帰宅を喜ぶ愛犬。おかえり!おかえり!会いたかった!と尻尾を振る姿まで見えて来そう。可愛い。さっきまで怒ってたのにもう笑顔だ。
 

 「迎えに来てくださったの?」

 「あー、うん」

 「嬉しいわ。今日はドコでランチにしましょうか」

 「待って、その前に。あの…、ごめんね。さっき休憩室で萌に絡まれてたでしょう?」

 「あら…、見てらっしゃったの?」

 「うん。ごめん。止めようと思ったんだけど何だか入り辛くて」


 ランチに行こうと私の手を引っ張る今城さんを止め、先程のことを謝る。すると、彼女は首をぶんぶんと大袈裟に振った。

 
 「そんなの気にしないで。当たり前よ」


 と。少し気の毒そうな顔を浮かべて。


 
 「色々言ってくれてありがとね」

 「もう!お礼なんて。私は事実を述べただけなのに」

 「ん、でも、あんな風に庇って貰うのは初めてだったから嬉しくて」

 「そんなのこれからはいくらでも。私は桑子さんラブなんですから」


 至極当たり前のように言われ、気持ちがスッと軽くなる。自分を好きだと言ってくれる人。彼女の存在がどれほど私の中で大きいか、どれほど支えになってるか、今城さん本人はきっと知らないだろう。

 伊那君にしろ、今城さんにしろ、味方が誰か1人でも居てくれるだけで、こんなにも心強くて暖かく感じるものなのかと、この歳にして初めて知った。自分は自分だと桑子は桑子なのだと認めてくれる人が居るだけで、そのままの自分を大切に思ってくれる人が居るだけで、心の中の真っ黒な感情が浄化されていく。淡く穏やかに人生が色付いていくようだ。
 
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