黒を以て白を制す

社員Aさん



 「直接言えばいいのに、わざわざ回りくどいことをやって。言い返されるのが怖いのなら出しゃばらずに黙ってたらどう?」


 デスクを叩く激しい音と罵る私の声が社内に広がる。ついに作戦を決行し始めた今日この頃。さっそく悪口が書かれた手紙を渡された。


 『陰険女、早く会社から出てけ。うざい、鬱陶しい、存在が迷惑。ほんと嫌い。消えて欲しい』など長文で。それも誰が渡したか分からないようにデスクの中にこっそりと。名前は無し。しかし、筆跡に特徴があるから誰が犯人かは既に分かっている。


 社員Aさん。ポニーテールと眠たそうな目と黒い眼鏡が特徴的な女性。字が正確で綺麗すぎるから直ぐにピンと来た。


 そこで見て直ぐ『これ、あなたが書いたんですよね?』と聞いた。最初は『さぁねー』と誤魔化していた社員Aさんも字のことを指摘すると諦めたらしい。嫌そうに顔を顰め『あんたうざいのよ』と犯行を認めた。


 そして今。犯行があった上での反抗である。しかし、こんなに綺麗な字が書けるなら心も澄んでてくれよと思う。安久谷桑子(あくやくわこ)、25歳。反撃開始。本気の悪役ライフを楽しんでます。


 「バカじゃないの?あんたなんか全然怖くないわ。しょっぼい」

 「なら顔を見て直接文句を言えばいいのに」

 「はぁ?別にどうやろうと、あたしの勝手でしょ」

 「何それ。好き放題言うだけ言ってこっちの意見は無視する気なの?厚かましい」

 「な、」

 「一方的に気持ちをぶつけるな。受け止めさせるな。せめて名を名乗れ。言い逃げは許さないわよ。自己中が」


 桑子、心の俳句。とタイトルが付きそうな罵倒を社員Aさんに浴びせる。だって本当にムカついた。名前も書かずに、しかも手紙を使って一方的に文句を聞かせるのはいかがなものか。


 自分の意見を聞いて欲しいのは分かる。自分の考えが正しいと認めて欲しいのも分かる。腹立つ気持ちを受け止めて欲しいのも分かる。ただゴミ箱じゃないんだぞ。聞こえてるけど返事をしないだけだとは思わないのか。


 そりゃ仕事について至らない点があって文句を言われるのならまだ分かる。それを受け止めて頑張るのも仕事のうちだから。


 金銭が発生している以上、改善する場所は改善しなきゃいけない。同じ社の人間からの意見であろうと、顧客からの意見であろうと同じ。間違いや未熟な点は正す努力をすべきだと私は思ってる。


 まぁ、自分の意見や感情をただ押し付けただけのことを言うのはどうかと思うが。それも自分に取ってプラスになるなら受け止めて自分のモノにするさ。


 プラスはプラスにしかならないが、マイナスはプラスに出来る。貴重なプラスをゲット出来るチャンスだと思って。


 だけど、ただムカつくってだけで暴言を吐かれたら、受け止めさせられるこっち側は堪ったもんじゃない。だったら、そっちも受け止めてから去れと思う。一方的に受け止めさせて逃げるのは狡い。


 そして腹が立っての現状。内心は心臓バクバクだけど、戦うって決めたからにはトコトン悪くいこうと思う。



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