黒を以て白を制す
「あんた何様のつもり!」
勿論、社員Aさんは私にキレる。そりゃまぁ、そうだ。今までストレス解消に使ってたサンドバッグが、いきなり襲い掛かってきたのだ。こいつ!生意気な!やりやがったな。と怒るのも無理はない。
この後はピーピー警報器が鳴ったかのように仲間を呼んで騒ぐんだろう。今は皆、唖然としているけど。
「桑子様のつもりですけど。何か?」
「鬱陶しい!調子に乗んなよ。偉そうに」
「それだけあなたが酷いことをやったんでしょうが」
「黙れ!後輩のくせに上から目線で言うな!」
「はいはい」
女王様か、と自分でも思いつつ言う。社員Aさんからしてみれば、後輩のしかも普段バカにしまくってる私に偉そうに言われて腹が立って仕方がないんだろう。
こういう上から目線の人ほど共通して“上から目線で言うな。偉そうだ。生意気だ”と少しのことで牽制を入れてくる。要は“自分を敬え”と釘を刺してくる。
何がそんなに偉いんだか、何をそんな凄いことをやったんだが、その辺に歩いてる人と何も変わらない普通の人間なのに、めちゃくちゃ偉ぶる。
だったら世の為、人の為になるようなことをしてから偉ぶれ。何か1つでも偉業を成し遂げてから偉ぶれ。もしくは無人島でも買って1人で王様ぶっとけ、と思うが、それを言ったら彼女はまた言うんだろう。“上から目線で言うな”と。
馬鹿になんかしていない、敬えと言うなら一人の人間として敬ってる、言葉遣いだって気を付けてる、いつも数歩引いて接しているでしょ、と思うが、バッカの一つ覚えみたいに“敬え、敬え”と言い続ける。言わなきゃ自分が落ちてしまうとでも思っているみたいに。
何も言わなくても落ちないのに、むしろ言った方が落ちるのに、自分の位置をずっと気にして、自分より上がってくるなと狂ったように言い続ける。実際は自分が感じてる高さより一歩上の場所に居るのにだ。わざわざ階数を上げてるのに、まるで気付いていない。
もう言ってしまえば、怖いんだろう。自分が下に行くのが。他人が上に行くのが。自分で中途半端な場所に居ると思っているから他人の目線なんかが気になる。
だってそうだ。本当に上に居る人は他人の目線なんて気にしない。気にする必要がないからだ。わざわざ威嚇しなくたって、そういう人らは他人が上がっていけない遥か上の場所に居る。周りがどれだけ目線を上げようと届かない。
上げたところで“何か言ってる人が居るな。見えんけど。新鮮新鮮。面白いな”状態なのである。