黒を以て白を制す
ハンター達
「安久谷マジでムカつくわ」
「この間のあれは何?」
「知らねー」
だだっ広いチェーン店の居酒屋の一室。楽しい親睦会の席だというのに、会社に居るときと同様、自分に対する不満の声が背後から聞こえてくる。
社員Aさんと戦ってから数日。あれから嫌がらせの手紙は無くなったが、悪口と無視とその他諸々は未だに残ったまま。一歩前進した後、先には進まず。後ろの宴会テーブルを陣取った悪口シスターズは今日も今日とて私の噂話に花を咲かせる。
安久谷桑子、25歳。悪口で始まり悪口で終わる、修羅の悪役ライフの幕開けです。
「桑子さん。私、部長様に呼ばれたから行ってきますわね」
「うん」
隣で一緒に飲んでいた今城さんが部長に呼ばれて席を離れる。自分も行こうか迷ったが、タイミングが良いんだか悪いんだか、頼んでいたお酒が来たからヤメた。
伊那君は残業でまだ来てないし、実質ボッチ。正確に言えば、周りには沢山人が居るけど、話せる人が居ない。話し掛けたけど、無視されてしまった。後ろで話している悪口シスターズは相変わらず私の悪口に夢中だし。
「ってか、安久谷さぁ、最近、社員Bさんにまで媚び売り出したでしょ」
「えー、伊那君だけじゃなく社員Bさんにまで?ほんと男好き」
「どんだけ狙うんだって話」
さっき店員さんから貰ったカクテルを飲みながら悪口シスターズの話に耳を傾ける。
おいおい、私の悪口がお酒のあてかよ。随分、不味いわ。会社でも散々『媚び売りまっしょい』って連呼されてきたところなのに。
彼女たちが言っている社員Bさんとは、髪が少し長めで眠たそうな目の、大人しい物静かな雰囲気の男性社員だ。私が座っている席から少し離れた場所に座って部長や今城さんと喋ってる。
勿論、私が社員Bさんを狙ってるってそんな事実は一切無い。強いて言うなら社員Aさんの件の後、何故だか時々話し掛けてくれるようになった。まぁでも、話すと言っても子供の頃にハマったアニメやバラエティーについて話してるだけ。色気は変わらず皆無だ。