黒を以て白を制す



 「でも、ま、狙ったところで、あんな暗い女なんか誰も相手にしないでしょ」

 「それがさー、あいつ最近仕事が終わった後に伊那君と遊んでるらしいのよ」

 「はぁ?マジ?何なのあいつ。あたしの伊那君にまでちょっかい出しやがって」

 「待て待て、あんたのじゃないし」

 「え、遊んでるって本気で?伊那君やばいじゃん。騙されてるんじゃないの?」


 小声でキャーキャー騒ぎながら悪口シスターズは私の背後で盛大に盛り上がる。好き放題、言われ放題、妄想され放題だ。恥ずかしい。


 私が何をどうやって伊那君を騙すの。しかも男好き、男好きって。こちとら3年も彼氏が居ないのに。それなら、あなた達の方が派手に遊んでるでしょ。彼氏が居るのに合コンに行きまくってるの知ってるのよ、と心の中で悪態をつく。


 もうほんとにいつもそうだ。男好きだの、男と仲良くしてるだの、媚びを売ってるだの、無駄に男関係に対してチェックの厳しい女に限って『但し自分は許す』状態なのは何故だろうか。


 散々、人に『媚びを売ってる!』と怒っておきながら、自分は甲高い声で色んな人と喋り回り、ベタベタと纏わり付いてたりする。


 そりゃ好きな人と私が仲良くしてて怒るのなら分かるが、彼女たちの場合は好き嫌い関係なく全ての男だ。知り得る男は全て自分の管理下にある。それこそ根こそぎ異性として意識してるのかと聞きたくなるくらい、こちらが少しでも誰かと仲良くしたりふざけ合ったりしてると直ぐに狙ってるだの何だの騒ぎ出す。


 何とも思っていないから仲良く出来たり、ふざけ合ったりしてるって考えはまるでない。否定しようがまるで信じない。好きだからこそ慎重に、好きだからこそ照れくさくて何も出来なかったり素直に言えなかったりするのに、そんな人間は存在しない、都市伝説だと思っている。


 それを見る度に彼女たちは猟銃を持ったハンターなのだと重々思う。彼女たちに取って男は獲物。こちらは動物園のふれあい広場にいるうさぎを撫でているくらいの感覚で男と接しているが、彼女たちは山にいる野生のうさぎを猟銃で追い掛け回しているのと同じ感覚で接しているのだろう。


 だから仲良く話すと俺の獲物を獲るな!とブチ切れる。それは俺が食べるうさぎだ!離せ!とうさぎを抱っこしている他の女に怒る。彼女たちの中では愛玩動物というモノは存在しない。目に入る動物は全て食料なのだ。


 別にどう思おうと構わないが彼女たちの質の悪いところは、うさぎは食料であるという観念を他人にまで押し付けるところだ。近付いてきたうさぎを抱っこしようものなら『その子はお前を食べようとしているのよ』などとうさぎ本人に言ったり、周辺の人間にまで『うさぎを食べようと狙ってるらしい』と言いふらす。


 とにかく、こちらがうさぎと話さなくなるまで、しつこくしつこく『食べようとしている』とバカ騒ぎ。ペットのうさぎを食べるのか?いいや食べないだろう。という考えは無いのだ。あくまで食料。捕食対象。獲物として見てる。


 そして、騒ぎを起こして他人をハンターに仕立て上げ、絡み辛くさせて遠退け。その後、彼女たちが何をするのかってコッソリうさぎを撃って食すのだ。素知らぬ顔で“いただきます”と。次の獲物を狙いながら。


 本当に質が悪い狼女たち。もう、そこまで言うなら一層の事、彼女たちの望み通り男好きになってやろうかな。なんせ、今本気の悪役を演じてる最中だし。

< 51 / 79 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop