黒を以て白を制す
ドコが好きかって聞かれたらハッキリ答えられないけど、とにかく伊那君って存在そのものが好きだ。一緒に居たいと思ってしまうんだから仕方がない。
だから普通で行こう普通で。いくら積極的に行くにしたってキャラじゃないことをするもんじゃないわ。して嫌われたら後悔する。
「他に何かいる?」
「んー、桑子的には何が1番食べたい?」
「私?唐揚げかな」
「じゃあ、それで。後は桑子のチョイスに任せる」
「結局、任すんかい」
「一緒のものが食べたいんだよ」
料理を取り分ける私にそう言って伊那君はクスクス笑う。うわぁーい!笑顔ご馳走さまですー!なんて得した気分になりつつ、お皿を伊那君に渡す。
うんうん。やっぱりこれだ。私たちはこれでいい。なんて、のほほんとした気持ちで顔を上げたら悪口シスターズが鬼の形相でガン見してて、一瞬心臓が止まるかと思った。怖いわ、地獄の監視官か。
「うっざ。何あれ……」
「仲良しアピかよ」
「彼女でも何でもないくせに。見てるこっちが恥ずかしいわ」
ぶつぶつと裁判でもするように悪口シスターズの手厳しい悪口会議が始まる。『栄養のバランス的に~』とか『取り方が下手』とか『盛り付け方にセンスがない』とか『私ならこうやるのに』とか色々。
怖…。まるで姑の嫁チェック。あの子、ちゃんとうちの息子に栄養のあるものを食べさせてるのかしら?確認しましょう。そうしましょう。もし食べさせてなかったら許さないわよ!と意気込んで探りに来た母親みたいな顔をしてる。
これで何か1つでも不備が見つかった日には明日から地獄の嫁イビりが始まる。まぁ!桑子さん。こんなこともお家で教わってないの?なんて世間知らずな子なのかしら。心配だわぁ。私が鍛え直してあげないと。と、嫌みに謎な正義感と親切心がプラスされて派手にビジバシやられる。
悪気はないって顔をして悪気いっぱいに。着心地の悪いセーターでも着ているかのようにチクチク、チクチク。むず痒くて脱ぎ捨てたくても簡単には脱がせてもらえない。ハサミで切り捨てるまではずっとそのまま。逃げられない。