黒を以て白を制す
「ありがとう。優しいね、安久谷さん」
開放されて喜ぶ今城さんに同調するように社員Bさんが半笑いで私の背中をバシバシと叩く。それを見て悪口シスターズがまた『媚びを売ってる』とキーキー騒ぎ始めた。結局は私が何をやってても気に入らないらしい。
「そうだ、この間はごめんね。俺の親戚が」
「え?親戚?」
いきなり社員Bさんに話を振られ、首を傾げる。何の話?と。すると、社員Bさんから社員Aさんは自分の親戚だと説明された。言われてみれば確かに似てる。眠たそうな目が。
「反省してたよ。やり過ぎたかなって」
「Aさんが?」
「うん。安久谷さん、あんまり怒んないから図に乗っちゃったってか、ぶつけちゃった感じなんだって」
「そうなんですか……」
「まぁ、怒られて目が覚めたってか、優しさにも気付いたみたいだったし、許してやって」
呂律の回らない口調だったが、気持ちを伝えられて頷く。全然前に進めてないと思っていたけど、一応ちゃんと効果はあったみたいだ。性格の悪い女の振り。ココからどう変わっていくのか想像もつかないけど。
「見てー、安久谷」
「うわ、伊那君の次は社員Bさんとかよ。見境ないな」
「萌が相手だと勝ち目がないと思ったんじゃん?」
「じゃあ、次は社員Bさんに誰か行かす?」
「そしたら次は部長を狙い出したりして」
「え、やっばー。不倫じゃん、不倫」
一歩進んだかと思ったらこの調子。ノリにのった悪口シスターズは、もう声を押さえるのも忘れてギャハハハっと手を叩きながら大声で騒ぐ。男好き、男好き、としつこく何度も。
いったい今の会話のドコにラブ要素があるんだ。あったら掬い上げてやるから説明しろと言いたい。他の関係ない社員もドン引きだし、チラチラこちらを見てる。いい加減ムカついてきた。あぁ、ダメだ。腹が立つ。
「安久谷が……」
「煩いなー。安久谷、安久谷って。人を見れば毎日ガァガァとバッカみたいに騒いで。あんたらはマンションの屋上で屯ってるカラスどもか」
「はぁ?」
「人を見りゃギャーギャー威嚇して。私よりあんたらの方が余程男好きだし、ムカつくわ。いい加減、黙れ」
込み上げる衝動が止まらず、悪口シスターズどものテーブルまで行ってバシッと言い放った。驚いた顔をしているがいい気味だ。私は絶対に言い返さないとでも思っていたに違いない。何も言い返せずに黙ってる。