黒を以て白を制す
まぁ、許せないけど、彼女たちがこうなるのも仕方がない。だって彼女たちはビビりだ。面と向かって言ってこないのは言い返されるのが怖い証拠。言い返されるのは怖いけど、強ぶりたいから仲間と一緒に離れた場所で聞こえるように悪口を言ったりする。
一種の強がり。要は人を甚振れるほど自分は強い人間だと周りに思わせたいだけ。“私、強いんだから攻撃しないでね”とハッタリをかましてるだけ。本当は攻撃されるのが怖くて仕方がない。だから攻撃されないために攻撃を入れ続ける。自分は強い人間であると周りに提示、又は自己暗示を掛けるために。
もしくは『やだー。強気な発言が出来てる私カッコいい〜。だって人を傷付けることが出来るんだよ?マジで凄い。私、超イケてる!強い』と自己陶酔してるバカだ。救いようのないバカ。
好き放題言えるから強いってそんなの強くも何ともない。この世で本当に強くなきゃ出来ないことなんて1つ。我慢だけ。
何事でもそうだか、これはもう相当強い精神力を持って挑まなきゃ出来ない。己の衝動を抑えるのは本当に苦行。頑張らなきゃ出来ないことだ。だから好き放題言ってる相手よりも言い返すのを我慢している相手の方がよっぽど強い。良い意味での強さ。1つの輝きだ。
だって皆よく言うじゃない。我慢のしすぎは良くない。毒だ、と。そんな毒を摂取し続けてる時点で人より少し強いのだ。
だからこそ、甘んじて受け入れてきたけど、もう許さない。我慢の限界だ。私だけじゃなく他の人までバカにしてるってことにいい加減気付け。ウルトラスーパースペシャルDXバカ共めが。
「とにかく黙って。2度と言わないで」
黙り込んだ悪口シスターズに言い捨てるように言い、自分の席に戻りお酒を口に運ぶ。あぁ、やっちゃったなー、って心境。
とはいえ、そこまで大声じゃなかったし、何より部屋全体が騒がしいから気付いていない人も結構多い。雰囲気をぶち壊した訳では無さそうだ。現に社長も部長も今城さんも、社長Bさんも伊那君と萌だって、何事もなかったかのように喋ってる。悪口シスターズだけが小声でぶつぶつ言ってる状況。
しかし、これからどうしようか。とにかく悪口シスターズを黙らせたいけど、でも今日は飲み会だし、さすがにこの和やかな雰囲気をぶち壊してまで喧嘩をするのもなー。また別の日かな……。
「桑子…、桑子。聞いてる?」
「え?」
ボケっと考え事をしていると伊那君に声を掛けられた。釣られるように顔を上げる。その瞬間、伊那君の手が伸びてきて私の髪に触れた。指を指し込んで後ろに流すように。
「わ…っ、ちょ、ちょっと待って」
突然のことに心底驚き、焦り倒しながら仰け反る。え、何?全然聞いてなかった。何?どうしよう。何?なんで触ったの?と頭の中が大パニック。
たかが髪に触れたくらいで……ってその通りなんだけど。普段は全然触ってこないだけに、いきなり不意討ちを食らって物凄くドキっとしてしまった。散々焦らされた後のご褒美の心境。それをご褒美に感じている私も私だが。とにかく理由も分からないのに焦る。