黒を以て白を制す

 「おーし。お前ら二次会に行くぞー!」


 酔ってご機嫌になった社長が声高らかに皆に向かって声を掛ける。盛り上がってる中、更に騒ぎ出す社員たち。萌も表情を一変させ『行きた~い』と伊那君に絡んでキャッキャッと楽しそうだ。


 だから、くっつくな〜!羨ましい……とちょっとイライラしてしまう。伊那君は社長と喋ってて完全に無視だけど。



 「伊那も行くだろ~?」

 「あー、二次会ですか」

 「行かないのか?」

 「どうする?桑子」

 「え?私?」


 いきなり話を振られて声が裏返りそうになる。なんで私?伊那君、いつも2つ返事で行ってるじゃない。私は行ったことがないけど。それに今日は何の約束もしてないし。


 「ん?お前ら何か予定でもあるのか?」


 社長に顔をじっと見られて思わず背筋が伸びる。この流れってまさか決定権は私?うわー、緊張する。伊那君は社長のお気に入りだし、断るにしたって社長の前じゃ言い辛い。かと言って、悪口シスターズと揉めた後だし。どちらかと言えば行きたくない。


 そうは思っても答えぬ訳にはいかなくて“行く”と言おうとしたら、伊那君が先に口を開いた。


 「特に予定は無いんですけど」

 「だったらいいじゃないか」

 「まぁ、彼女が行くなら」

 「なんだ?早く2人っきりにさせろってか」

 「はい。僕的には出来ればこの後は2人でゆっくり過ごしたいと思ってるんで」

 「おー」

 「って言っても僕の望みが叶うのは安久谷さんが頷いてくれたらですけどね」


 仕事の報告でもするように真面目な顔で社長に話す伊那君。隣で聞きながら、一瞬、頭の中がフリーズする。ん?どういう意味だ?と。



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