黒を以て白を制す
「安久谷みたいなやつが伊那君と。許せん 」
「弱みでも握られてるとしか思えないわ」
「実際にそうかも。伊那君、可哀想」
「絶対に別れさせてやる」
「どうやったら別れるかな?」
闘志に燃える女子社員達の声が社内の至るところから上がる。歩く度に囁かれるその声に堪らず苦笑い。恋愛面では充実してるけど、会社での悪役っぷりは終息するどころか悪化する一方だ。皆、どうにか別れさせてやんぞ!と意気込んでるし、ちょっとしたことでキレられる。
無視は無くなったが代わりに挨拶をする度に『喋りかけんな!』と罵倒される。しかし、それも幸せ大絶頂な私には効かない、届かない、響かない。安久谷桑子、25歳。浮かれまくりの悪役ライフのスタートです。
「信じられないわ。伊那君ったらあいつのドコが良くて付き合ってんだか」
「そうよ。あんな何の努力もしてないような女。私だったら付き合うなんて恥ずかしくて出来ないわ」
休憩室の前。今日も悪口シスターズは飽きることなく私の悪口を言っているようだ。懲りない人たち。あれから毎日、カラス呼ばわりしているのに、まだ諦めずにごちゃごちゃ言うなんて。
別に言うのは構わないけど、せめて休憩室で言うのはヤメて欲しい。物凄く中に入り辛い。明るく入るか怒りながら入るか迷う。
「大体、外食ばっかり行っててバカなんじゃない。私なんか健康のことを考えて毎日作ってるのに」
「ネイルだって普通は店にまで行かない?自分でやってるんだか全然ケアしてるように見えないわ」
「私なんか毎日デスクの拭き掃除をやってるのに、あいつは3日に1回だけ。いつも片付けて終わりなの」
「お弁当だって彩りが微妙なのよね。レシピなんて探せばいくらでもあるのに見ないのかしら?」
「甘ったれてんのよ。根性がない」
複雑な私の心境など露知らずぶつぶつと文句ばっかり言い続ける悪口シスターズ。煩い、人の勝手だ。そう言ったって彼女たちは毎日飽きずに言い続ける。永遠と、あんたはダメねと人を貶し、それに比べて私は凄いと自画自賛している。