黒を以て白を制す

 「今日もマウント取りまっしょい」


 休憩室のドアを開け放ち、悪口会議中だった悪口シスターズに向かって言い放つ。


 「うわっ」


 しまったバレた!とでも言いたげに焦る悪口シスターズ。ガタガタとイスを鳴らして化け物でも見たような顔で固まってる。明るく入って行ったのに失敗したみたいだ。ちょっと残念。


 「あれー、どうしたんです?黙り込んで」

 「はぁ?」

 「外食ばっかでネイルサロンにも行かない、3日に1日しかデスクを拭かない、料理下手な安久谷が来たんですが」

 「な、何よ」

 「適当ぶっこいてるくせに付き合っててムカつく、愛されててムカつく、別れなくてムカつくって、いつもみたいに怒らなくていいんですか?」

 「なっ、何よそれ!」

 「さっきも言ってたじゃないですか。私より自分の方が伊那君と付き合うのに相応しい女なのに、って」


 自虐にマウント、煽りまで入れて、自分でも内心うっざーと思いつつ言う。


 本音を言えば、突っ掛からずに無視したい。平和に行きたい。心の中は凄い複雑。でも、ここで折れたら“ビビって何も言い返して来なかった”って、相手に取って都合の良い勝ち話に擦り替えられるのは決定的。


 そうなったら、それこそ、ふんぞり返ってお前は負けたんだから言うことを聞けと言い出す。勝者の自分たちの言うことは全て正しい、とっとと別れろってしつこくしつこく歯止めも効かず。それは避けたい。


 「煩いわね!本当のことを言って何が悪いの?あんたよりあたし達の方がよっぽど相応しいわ」

 「それは伊那君が決めることですよ。私よりあなた達の方が良いと思ったら選ぶでしょうし」

 「どうせ、そうならないようにあんたが伊那君の弱味でも握って脅してるんでしょう」

 「伊那君はそこまで抜けてません」

 「知ってるわよ!偉そうに知った口を利かないで」


 おいおい、言ってる事が矛盾してるじゃないか。と思うが彼女達は至って真剣に言っている。本当に私が悪く見えて、尚且つ本当に別れて欲しくて仕方がないんだろう。イライラするくらい。


 でも、別れるって選択肢もなければ黙るって選択肢もない。どっちも捨てちゃいけないものだし、捨てたくないものだから。掴んだ幸せを手放したくないと私だって必死だ。別れさせようとするこの人達以上に。


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