黒を以て白を制す
「あんた、ほんと生意気」
「そうよ。伊那君と付き合ってから更に調子に乗ってんじゃない?」
「じゃあ、以前の私はどうだったんです?」
「は?」
「比べてみて、どうなんですか」
切り込んでいったと思う。彼女たちの反応があまりにも変わらないから聞いてみた。本当の悪役を演じてるけど、この人達には実際に効果があるんだろうか?社員Aさんの時はあったみたいだけど。無かったら無かったで、やり方を変えなきゃいけない。
何も私は彼女たちを傷付けたくて、仕返しをしたくて、こんなことをやってるんじゃない。変わりたいから、変えたいから、変えていきたいから、やってるんだから。
「そりゃ…、まぁ……」
「まだ前の方がマシだったわ」
「そうよねー。こんなバカみたいに突っ掛かってくることもなかったし」
「そう言えば、よくお菓子もくれたわ」
「そうそう。持ってくるお菓子がいつも美味しいのよね」
「安久谷ったら味覚だけは才能あるじゃんって私たち、言ってて~」
律儀に言われた通り輪になって悪口シスターズはお互い顔を見合わせながら、以前の私と今の私について話し出す。私の存在は一旦無視だ。
ほんと、この人達、根は真面目なのになー。個々で話せばわりと良い人。根っからの悪人って訳でもない。ただ、いつも集まると真面目さが斜め上の方向に行く。悲しいくらいに。
「だったら、もうお互い折れません?変えていきましょうよ」
流れに乗って言ってみる。これで丸く収まったらラッキー。平和な日常の到来。わざわざ呼び寄せなくったって、向こうから勝手にやって来る。ルンルンとスキップでもするように。
実際、伊那君と付き合ってからは“男好き”だとか“媚びを売ってる”だとか、その点を責めることはなくなった。理由は分からないが見方を変えたのかも知れない。
だからか社員の何人かは態度が少し丸くなった。あんな風に少しずつ敵が減って平和になっていけば……と思っても簡単にいかないのが彼女たち。